別の記事で書いたが(『「イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」』)、大きく分ければイノベーション人材は2種類に分けられる。それがイノベーション構想人材と実行人材である。非常に単純化して言えば、構想人材は実行人材の能力の上に、構想力を持った人材である。実行人材には、従来にない構想に対して「面白い」と思って自分なりに考えて実行する能力が必要である。これも簡単に見えて実際には結構難しい。
この2タイプをより深く理解していただくためにも、それぞれを2タイプずつ、合計4タイプに分けたいと思う。
イノベーション構想人材
- イノベーション・プロデューサー
- イノベーション事業家
イノベーション実行人材
- イノベーション実験家
- イノベーション遂行家
イノベーション・プロデューサー
イノベーションをプロデュースする人が最上位にいるべきである。プロデューサーがいないとイノベーションの創出はなかなか難しい。イノベーションを掲げる企業にとっては最重要の人材だが、残念なことに、一般的に言われている「イノベーション人材」は、どうやらプロデューサーはあまり含んでいないように見える。
プロデューサーの役割を理解していただくためには、イノベーションも分類しておきたい。「構想イノベーション」と「実現イノベーション」の2種類である。構想イノベーションとは、それまでのゲームのルールや顧客のライフスタイルを変えたり、従来とは異なる視点で事業や商品を位置付けたものである。
実現イノベーションは、そこまでのことを狙わない。構想があればその実現のための革新であり、構想がなければ、従来のゲームのルールの延長線に乗った上で起こす小さな進歩である。例えば、外出時でも自宅のペットの様子が見えるアプリがあるが、これは実現イノベーションと考えられる。従来なかったものだが、従来の延長線上である。
日本企業が「イノベーションを起こそう」と提唱して、その結果出てきた事業や商品にはこの「実現イノベーション」が多い。ほとんどと言っていいかもしれない。ただし、そのうちの非常に多くのケースで、構想があるようには少なくとも見えない。
この構想の大元やきっかけを作るのがプロデューサーの役割である。その中でも重要なのが、「顧客の視点で『そもそもの問い』を投げかける」という行為である。『そもそもの問い』は、従来のサプライヤーが提供していないことに疑問を呈する。逆に言えば、日本(だけではないと思うが)ではこの人材の大変不足している。
例えば、「そもそも、なぜ音楽プレーヤーは、いちいち楽曲を入れ替えなければいけないのか?」という問い。この問いの結果、どんな商品が生まれたかはお分かりの方も多いと思う。
別の例(クイズ)を挙げれば、「そもそも、なぜ利便性の良い立地の百貨店がないのか?」という問い。昔の日本で、ブランド力の高かった老舗百貨店はどこも立地がさほど良くなかった。そこに疑問を投げかけ、百貨店業界にイノベーションを起こすきっかけを作ったと言っていい。誰がこの疑問を持ったか、どの会社がどこで実現したかはぜひ想像してみていただきたい。(ちなみに、私は色々なところでこのクイズを出すが、正答率はおそらく10%ぐらいだろう。)
このプロデューサーの存在が大事なのは、「顧客の視点」から発想しているからである。イノベーションを画策した試みのうち、おそらく9割以上が「何ができるか?」とか「どんな新技術が可能か?」などという視点を出発点としている。出発点がプロダクトアウトなので、成功する確率は低い。プロダクトアウトの全てが悪いというわけではないが、「良い技術であれば、結果的に売れるはず」ということはあり得ないケースの方が圧倒的に多い。
プロデューサーに求められる視点は簡単に聞こえるかもしれないが、これは非常に難しい。正解はないし、あったとしても誰にも分からない。その問いを投げかけるために思考の量も質も求められる。もしプロデューサーの思考が社内のロジックで溢れていたら、顧客の視点で考えることは不可能に近い。しかも何が社内ロジックで、何がそうではないかは判別が難しい。一見関係のないことを見聞きするためにあらゆる行動、認知、思考の蓄積があって初めてできることではないかと考えられる。
さらには、顧客に直接話を聞いても、そのような疑問は滅多に出て来ない。顧客は既存サプライヤーの提供方法の中でしか選べず、それが当たり前だと思っている。だからこそ、プロデューサーの、誰も持っていないような視点からの疑問は貴重なのである。それが結果的に成功するか否かは別にしても。
プロデューサーは、その会社の代表者であることが多い。必ずしも代表者でなくてもいいとは思うが、ただしそれは「その会社が顧客の視点で考える会社なのかどうか」を象徴する。せっかくプロデューサーが顧客視点で従来にない視点を提示しても、役員会で却下されるとイノベーション実現はほぼ不可能と言っていい。(苦笑されている方も多いのではないかと想像している。)だからプロデューサーには相応の実権または信任が必要なのである。
イノベーション人材育成研修のようなものを時々見かけるが、研修でプロデューサーが作れると本気で信じているのだろうか。私には全く理解できない。(「研修で人は育たない」参照)
イノベーション事業家、実験家、遂行家については、別の記事として書きたいと思う。
宮田 丈裕 (当社代表)
※この記事は、引用・リンクは自由にしていただけます。
ただし、当社の会社名、記事の著者名を引用していただくことと、
どのようなサイトなどのメディアで取り上げるかを
当サイトの「お問い合わせ」から当記事タイトルと共にご一報いただくことを
条件とさせていただいております。