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知的好奇心とは何か?(ドリル受検対策②)

イノベーション人材に求められる能力 のうち、最も基本的で重要なものの一つは「知的好奇心」である。他にも「我事化」を 別記事 で挙げたが、「見たことがないものを見た時に知的好奇心が強まり、それを基にして我事化する」ことがなければ、イノベーションのその人自身のきっかけがなくなってしまう。 何度も言うようだが、世に言われるイノベーションは結果論である。それが創り出されるプロセスにおいては、それが多くの人のライフスタイルや常識を変えてしまうようなものになるとは、関係者全員が思っていないかもしれない。つまり、関係者にとっても「見たことがない」もので、「は!?何これ???」…言語化すれば、根底にパラダイムシフトを含んだものでもあったりするかもしれない。従来の枠組みや視点や価値観ではどうにも理解しようがないものかもしれない。 その時に発動させるべきものが知的好奇心である。「は!?何これ???」に続いて「面白そう…」とつぶやく精神と言ってもいいかもしれない。 イノベーション人材の能力は、「自分自身をイノベーション人材だと位置付けたい人」や「会社にイノベーション人材だと認定された人」だけに役立つものではない。「自分はイノベーション人材ではない」という人にとっても、基本的能力があると、周囲で起きるイノベーションの試みをむやみに否定しなくなる。これもとても重要なことだ。 知的好奇心とは、経験のない物事に対して興味を持つ心理的プロセスである。なぜ「好奇心」だけではなく、「知的」好奇心と言っているかというと、好奇心は高等動物全般が持つ、本能に基づくと思われるもので、「知的」が付くと人間特有のものになり、本能に基づかずに思考や心理メカニズムによって興味を持つことだからである。 好奇心は高等動物全般が持っているものと言ったが、そうであるとすれば、知的好奇心は人間全般が持っていてもおかしくないことになる。実際、ご存知の通り、特に人間の子供の1才から3才ぐらいの時期には、知的好奇心が強くて何でも触ったり食べたりしようとするので、むしろ危ないことも多いほどである。3才~6才ぐらいでは、「なんで?」という質問を連発したりする子も多い。 しかし、大人の人たちに「あなたは、自分が好奇心旺盛だと思いますか?」と尋ねると、実際に研修や講演で訊くのだが、「いいえ」と答える人はおそらく半分以上だ。あなた自身はどうだ

なぜこんなに大量に記事を書いているのか?

私は今、このような記事を集中的に書いている。ここでは、番外編として、私がそうしている背景や意図を書きたいと思う。 まず、アセスメントに携わってきた中で、私は本当に色々なことを学ばせていただいた。最初の数年はアセッサーとしての技術習得に必死で、その後、インタビューが面白くなって大量にインタビューの仕事をしていた。 インタビューが面白くなったのは、極めて優れたリーダーや経営者の方々から素晴らしい話を聞けたというのが理由の一つである。私個人としてとても大きな学びになったし、彼ら彼女らの「真似をしよう」と始めたことは数多く、その中でも今でも続けていることも多い。彼ら彼女らはそんなつもりはなかったはずだが、私の偉大な先生達であり、私はとても感謝している。 この時期に何百人、何千人にインタビューをしているので、様々なエピソードを思い出すが、手短に書けることとなると限られているので少しだけ。 ある方はインタビューを受けるために札幌から東京に来てくれた。銘菓のお土産まで持って来てくださったことには驚いたが、それ以上に感心したのは、「これ、よかったら食べてください。美味しいんですよ。」と言って箱を開け、まず自分が1つ開けて食べていた。これがなければ遠慮していたと思う。昔ながらの対人対応かもしれないが、非常に上手だなと思った。単純なことに見えて、簡単にできることではない。実際、北海道の地場の人脈を広く深くお持ちだった。(ただし、アセスメント上の評価がお土産によって変わることはない。いや、 ほとんど ない。笑) また別の会社でのインタビューは、かなり違う意味で忘れられない。その会社が別の同業会社を買収し、買われた会社のシニアマネジャー全員をインタビューしたのである。買収直後で、買収後統合(いわゆる "Post-Merger Integration" (PMI))の一環として行われた。そのインタビュイー(インタビューされた人)のうち結構多くが、少なくとも最初は、手が震えていた。3~4mは離れていたと思うが、はっきり分かるほどだった。買収され、不要人員の首が切られると思っていたのだろう。「この時間次第で自分の行く末が決まる」と。そんな噂も立っていたのかもしれない。たぶん、実際には解雇はなかったと思うが、あまりにも印象的だった。 また、ちょうどその頃に『トレーラーハウスから

我事化とは何か?(ドリルの受検対策①)

「イノベーション人材」にとって、我事化は最重要の能力項目の一つだと言っていい。我事化とは、何らかの事柄を自分のこととして捉えて能動的な行動に繋げることである。「当事者意識」と言い換えてもいい。我事化の逆は「他人事」にすることであり、建設的でない評論や愚痴はこの典型例と言える。 対談の中で古森剛氏も語っている が、架空の質問に対する答えとして「私ならこうする」というような言い方をする人は我事化の力が高いことが多い。我事化が弱い人の典型像は、誰かが出した答えに対する論評はやたらと立派で賢く見えることがあるかもしれないが、自分がやるとなると言い訳をつけたがったり、保険をかけたがったりして、返って来た結果に対しては自分の責任をあまり感じずに、むしろ他人のせいにしたりもする。 もちろん、我事化の力が高い人でも、我事化しない事柄もある。だからこそ、イノベーション人材の最も基本的な能力として我事化と知的好奇心がセットなのだが、ただ、我事化のスイッチを入れようと決めたことに関して我事化できるかどうかは大きな差がある。ある意味「やる気スイッチ」と呼んでもいいかもしれないし、「コミットメント」にもかなり共通した側面があると思う。 既にご想像されているかもしれないが、我事化が大事なのは、イノベーション人材に限らない。我事化は社会人の基本と言ってもいいと私は思う。社会人だけではないだろう。例えば、高校や大学の受験生が、受験勉強を他人事や”やらされ感”でやっていたら、その効果は限られてしまう。人生を前向きに生きるための能力と言っても過言ではないかもしれない。 ところが、これをやれる人というのは意外に少ない。大きな会社に勤めていると、自分の会社が「自分の会社だ」と思う意識は弱くなるのも自然かもしれないが、会社全体をより良くするための課題を他人事と捉えてしまう人は極めて多い。インターネット社会、特に掲示板文化に見られる誹謗中傷においては、全てが他人事であるかのような人もいる。つまり、我事化は社会にとっても無意味なことではない。 「責任感」も我事化に近い概念だが、責任感はどちらかと言えば、役割とセットになっていることが多い。「自分の役割範囲はここ。だからこの件は自分がやるべきこと。」というロジックが背景や無意識にあるように見えることが多い。それに対して我事化は、役割とはあまり関係がない。「あなたが

小規模企業にとっての人材育成体系

「小規模企業」だからと言って、社員の育成に対する考え方は変わるものではないが、ケースとして多いと思うのは、「今まで何もしてこなかったので、1から作りたい」というような状況ではないかと思う。そうでないケースとしては、「あまり体系的になっていなかったので見直しをしたい」というケースかもしれない。 いずれにおいても、まず何を考えていけばいいかということと、小規模ならではのメリットというものがあるので、それがどういうものかということについて書きたいと思うので、少しでもご参考になればと思う。 まず、考慮するといい点が3つある。あるいは注意した方がいい点、と言った方がいいかもしれない。 1点目は、「社員を思い通りに育成することなどできない」ということである。これは「 『人を育てようとすること』の大きな落とし穴 」にも書いたことだが、「人は自分で、自分の必要性に応じて成長しようとする」のであって、「上の人の必要性に応じて育てられる」ものではない。 しかし、多かれ少なかれ体系的に育成を図っていこうとするということは、多かれ少なかれ社員を一括りに扱うことであり、下手をすると矛盾する部分である。したがって、育成体系は、経営者が「こうなってほしい」というものと同時に、社員本人が魅力的だと感じたり、メリットがあると捉えられるものである必要がある。 社員が魅力やメリットとして感じるかどうか、感じるものはどういうものか、ということは「きっとこうだろう」という決め付けを決してせずに、声を聴いてほしい。本人がどういう風になっていきたいのか、5年後、10年後に(年数は会社によるが)、本人がどうなっていたいのか、といった点である。つまり、経営者が「こうなってほしい」という像と、本人が「こうなりたい」という像のすり合わせである。 中には、本人の「こうなりたい」という像が明確になっていないケースがある。特に、期待に応えてその責任を果たし、周囲から喜ばれ、さらに重要な役割を任せられることをモチベーションの源泉とするような人は、そういう像が持てないことも多い。 そういう時にも「なりたい像」を作ることを決して強制したりしないことである。強制したところで、経営者が喜びそうな”正解”に近いものを描いてくるだけで、それではほとんど意味がない。『

イノベーション実行人材の2タイプ:「実験家」と「遂行家」

イノベーション人材には「構想人材」と「実行人材」の2種類があり(『 イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」 』参照)、後者の実行人材には「イノベーション実験家」と「イノベーション遂行家」の2種類がある。 「実験家」の話の前に、上記の別記事で書いたが、イノベーション実行人材とは、「単純化して言えば、構想人材が考えた構想に対して、「それ、面白いかもしれない!」と思い、その実現のために自分でも工夫をしながら前進させていく人である。」 イノベーション人材というと、主に私達がイノベーション構想人材と呼んでいる人材のことを指すことが多いが、イノベーション実行人材もとても重要である。 また、イノベーション人材というと、研究開発に携わっている人のことを指すことも多いが、彼ら彼女らも大変重要だが、重要なのはそうした人材だけではない。ありとあらゆる職種でイノベーションは関係し得る。 例えば、イノベーション創出を目指して新商品を開発したとする。そのためにイノベーション人材を集めて開発したとする。しかし、その後工程で、製造方法や販売の方法、マーケティング戦略や知財戦略でもイノベーション創出のための協力がなければ難しい。後工程の人たちはイノベーション人材ではなくてもいいのだろうか。そこが「イノベーション実行人材」に私達が込めている主張である。その例で言えば、例えば営業担当者が、その商品を「面白い」と思い、「これはチャンスがあるぞ」と感じ、「こういうタイプの顧客にこういう訴求方法で紹介してみよう」という工夫は、イノベーション創出プロセスの一部であることは間違いない。 イノベーション実験家 上記の例のような「イノベーションの構想を実現するために、こういうことを試してみよう」と思い立って実行する人が「イノベーション実験家」である。 繰り返しになる部分もあるが、研究開発部門の技術者は往々にしてここである。必ずしも構想家ではないかもしれない。 もっと言えば、日本企業におけるイノベーションの試みは、「イノベーション構想」がないことがしばしば(おそらくほとんど)である。典型的なのは、研究開発部門に新技術のシーズから目新しい商品を開発させることだ。そこにはイノベーション構想がない。イノベーション構想とは、既存市場の一要素を上位概念化し(≒そもそも論で疑い)、「こうした方が遥かに良いものがで

「やりたい仕事」の罠

10代から20代ぐらいの人たちから、こういう声をよく聞く。「将来やりたい仕事が見つからない。」 私はそれはごく自然なことだと思う。なくて当然だと思う。その上、むしろ、「やりたい仕事がある」ことは素晴らしいことなのだが、少し注意した方がいい。 世の中全般的に、「やりたい仕事」を早くに見つけ、そのために勉強するなりスキルを習得するなりすることが、ある種の美徳とされているように感じられるが、これは矛盾を孕んでいる。 仕事では、お金を稼ぐこととは切っても切り離せない。それを目的にするかどうかは別にしても、お金を稼ぐことは最低の条件とも言える。もちろん、お金を稼がない仕事というのもあるし、それもれっきとした仕事だが、その仕事以外の何らかの”源流”からお金が流れてきているからそれができることがほとんどだろう。 お金を稼ぐなら、あるいは仕事をしていくなら、自分自身のマーケティングが必要である。マーケティングとは、顧客のニーズを捉えて、ニーズを少しでも超えて価値を提供(しようと)することだ。 私はよく「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という言葉を引き合いに出すが、プロダクトアウトとは、商品の良さを押し出すことでそれを売ろうとすることで、マーケットインとは市場(顧客)が求めるものを用意して売ろうということだ。完全なプロダクトアウトだと商品は逆に売れにくいのだが、「やりたい仕事」とはプロダクトアウト性が強い考え方だ。 仕事においては、プロダクトアウト的な部分ももちろん必要だが、基本はマーケットインだ。当たり前の話だ。何かを頼まれて、それを完遂するのが仕事だからだ。自分がやりたいことをやって、それを「すごいでしょ?」と見せることで完了する仕事というのは非常に少ない。 「やりたい仕事」の影に隠れた矛盾がそこにある。仕事というものは頼まれたことをやることが基本だ。あるいは、何らかの必要性がある事柄について、自分から「じゃあ、それ、私やりますよ。」と言い出してやることが基本だ。ついでにマーケティングの考え方を入れれば、その上に「ニーズを超えた価値」をおまけで付けてあげてインパクトまで与えられたら最高である。 交渉術をご存知の方ならお分かりだろうと思うが、交渉において、本当にほしいものややりたいことはできるだけ出さない方がいい、という原則がある。なぜなら、それが弱味になるからだ。仕事を頼み

測定しにくいイノベーション能力、「人望/愛されキャラ」

当社では、 イノベーション人材に求められる能力的な要件 を用意している。これは、よくある社内のコンピテンシーとは扱い方が根本的に異なる。全ての要件が一定水準なくてはならないかというと、そういうわけでもない。あればあるほど素晴らしいが、一点集中突破型でもいい。 反省を込めて言うのだが、アセスメント結果を本人にフィードバックする時、本人の中で相対的に強みとして出てきた能力を褒めた上で、相対的な弱みを伸ばすことを促している。時々、「強みをもっと伸ばすという考え方をするのは良くないのか?」と訊かれるが、コンピテンシーの場合、足を引っ張るような弱みを解決する方が先決かもしれない。しかし、少なくともイノベーション人材の能力要件については、強みを伸ばす方向でもいいかもしれない。 その中で、イノベーション創出プロセスの中でとても重要な能力だが、非常に定義しにくいし、自分でコントロールして強化しようなどとするのが難しいために、当社の能力要件に入れていないものもある。その一例が「人望」と言ってもいいものである。 「あの人は人望がある」などという言い方をよく聞くが、一応、辞書で定義を調べると、だいたい、人望とは「大勢の人たちから尊敬されている状態」のことである。つまり、結果論なのである。尊敬を得るに至った過程で発揮した能力については何も示唆していない。 似たものとして「愛されキャラ」という日本語もある。「尊敬」とは少し違うのかもしれないが、「大勢の人たちから愛される性格(の持ち主)」というような意味だろう。これも結果論である。結果論だと、しかもそれが性格の話だと、自分では向上させるのが難しくなってくる。 イノベーション創出に大きく貢献した人達、特にリーダーシップを取った人達を見てみると、「人望」や「愛されキャラ」とでも呼ぶべきものをある程度共通して持っている。 この理由はある程度理解しやすい。イノベーション創出プロセスでは、従来ないことを創り出そうとしているため、そのモチベーションを継続させる拠り所が少なくなる。あるいは、イノベーションの種のようなものが、往々にして「無理難題」であることが多く、それでも「あなたの言うことなら協力してあげるか…」と思ってもらえるかどうかは確かに大きな要素である。 また、「人望」や「愛されキャラ」の難しさの1つは、それが性別あるいはジェンダーとある程度深く関

【事例】某製造業企業の研究所に存在していたイノベーション阻害要因

ある製造業企業で、研究所のチームリーダーを対象とした研修が行われた。私はそのファシリテーターとして一部を担当させていただいた。その中では、当社の「イノベーション組織診断」を使った。 「イノベーション組織診断」とは、その名の通り、組織の状態がイノベーションを創出できる状態になっているか、ということを定量的に測定するものである。ただし、短時間で自分で結果も出せるセルフチェック形式もあるので、研修中でも簡単に扱える。 一見矛盾しているように見えるのだが、イノベーションは組織が産み出すということは言えない。つまり、「こういう状態にある組織は高確率でイノベーションを創出する」ということがなかなか言えない。 ただし、こうは言えるのである。「こういう状態にある組織は高確率でイノベーションを創出できない状態にある」ということだ。つまり、イノベーション創出を阻害する要因は共通性が高い。この診断はそれを測っている。 言い換えるなら、組織状態とはイノベーション創出の必要条件であって、十分条件ではない。 したがって、全体的に得点が高ければ、「イノベーションを創出できる条件は揃っている」ということを意味し、得点が低ければ阻害要因を取り除くことが必要となる。それはどれも簡単ではないが、イノベーション創出のためにリーダーシップを取るべき人がまず何をすべきかを考えるヒントになる。 この企業の研究チームリーダー、14名の皆さんはとても面白がって取り組んでくれていた。まず、セルフチェックの様式の質問紙に回答してもらい、それを自ら集計してもらった。質問紙はこのようなものである。(目的などは口頭で説明した。) 「【分野①】」と書いてあるが、分野⑥まであり、合計41問ある。セルフチェック形式ではなく、当社に回答を集めて集計する形なら、このようなレポートが送られてくる。(この研修では出力しなかったが、1名の方の実際の結果を出すとこのようになる。) 全体結果に続いて、6つの分野ごとの結果も表示されているのだが、6つの分野とは以下の通りである。 ”にっちもさっちも” ”恐怖政治” ”大企業病” ”硬直管理” ”依存” ”あくせく業務” それぞれがどういう意味か、なぜそれがイノベーションを阻害するかは別の記事で書きたいと思うが、大企業の場合、「大企業病」が低く(阻害要因として強く)なりやすく、それに続いて「依存」が

プロダクトアウトな傾聴力、マーケットインな傾聴力

傾聴力の重要性はよく言われることだが、対人対応では全ての基本だと言っていい。 対人対応というのは実に幅広い。仕事上のコミュニケーションでも様々な関係性やシチュエーションがある。タスクをこなし、問題解決を前進させるためのコミュニケーションもあれば、感情に寄り添うためのコミュニケーションもある。上司が部下を励ますためのコミュニケーション、部下の成長を促すコミュニケーション、つまりリーダーシップで求められるコミュニケーションもある。もちろん、コミュニケーションは対人対応の中心ではあるが、それが全てでもない。その中でも、傾聴は全ての基本である。(さらに、別記事『 測定しにくいイノベーション能力、「人望/愛されキャラ」 』ではイノベーション人材にとって傾聴が不可欠であることを語っている。) 私は2003年ぐらいからインタビュー・アセスメントをやっているが、当然のことだが、傾聴力はまず何よりも重要である。その上、単に話を聞けばいいわけではなく、「アセスメント」なので、色々なことを考えながら聞く必要があるが、それでも、相手にとって自然なコミュニケーションになっていることは大事なことである。 しかし、「傾聴が上手い人」というのは、具体的に顔が思い浮かぶほど、数えられるぐらいの人数だ。つまり、非常に限られている。もちろん、話を聞こうとしている人はたくさんいるが、効果的な傾聴ができているかどうかはまた別の話である。 できているかできていないか、あるいはタイトルにあるように「プロダクトアウトかマーケットインか」の二項対立にすると、話を単純化しすぎてしまうものだが、わかりやすさのためにあえてそうしたい。 というのも、「聞いているつもり」になりやすいからだ。全然効果的ではないのに、「傾聴?あー、自分は問題ないっす。」ぐらいの方が多い。他の能力と違って、傾聴力というものは客観的に捉えにくいという特徴がある。 効果的な傾聴ではない話の聞き方には、主に以下のようなパターンがある。客観的に捉えにくいだけに、あなたの傾聴力をチェックするのに役立てていただきたいと思っている。 ◆パターン①「早々に自分の関心のある話題に持って行く」 他者が話し終わっていないのに、自分の話に持って行くというのはよくあることだ。それが良くないことだということを認識している人も多い。日本では「話は最後まで聞きましょう」というこ

人間の「非」成長性と適材「不」適所

役職はどうあれ、実質的にマネジメントをやっている人々が口をそろえて言う言葉はたくさんあるが、「適材適所」はその1つである。 これも創造性のトレーニングになるが(別記事「 創造性とは、伸ばせる能力なのか? 」参照)、そういう言葉は「もしかしたら、逆も真なのではないか?」と疑ってみると、新たな視点が得られることがある。「適材適所」もその1つである。 つまり、「適材『不』適所」が真である、ということだ。 「適材適所」が間違っていると言っているわけではない。それが原則としてあることに変わりはないだろう。しかし、「本当にそれだけでいいのか?」ということである。 行動科学者であるモーガン・マッコール教授によれば、 人は成長と相反することを好む 、と言う。私が色々な人を見てきた中で、これは的を射ていると思う。 どういうことか? まず、「成長したい」という内容のことを、言葉では言う人は多い。しかし「成長」という言葉が意味していることが「より大きな成果を上げること」であることが多い。これは私とっては非常に意外だったのだが。行動科学や心理学の分野で言う成長とは、様々な定義があるが、「好ましい(とされる)行動を取れるようになること」であり、たまたま1回できることではなく、再現しようと思えばできるようになることを意味している。この2つの「成長」には大きな隔たりがある。真逆である、と言ってもいい。 なぜ真逆なのか? 「より大きな成果を上げること」を目指すことは素晴らしいことだ。しかし、全員ではないが、そういうことを思っている人達のうちの多くが「自分の得意なことをすることで」より大きな成果を上げること「で、さらに認められること」を暗黙のうちに前提としているのである。「得意なことをやって認められたい」…もっと言えば「今、既に持っている自分の能力を使って認められたい」のである。これには行動変容の前提はないか、小さいと考えられる。ただし、もちろん、「自分はまだまだだ」と思っていて、好ましい行動変容をして大きな成果を上げることを目指すという、ハイブリッドの人もいるが、本心から行動変容を望んでいる人はどうやら少ない。 「 『人を育てようとすること』の大きな落とし穴 」でも書いたが、いくら上司が「この部下はこの弱みを克服しなければならない」と思っても、本人が(少なくともすぐには)なかなかその通りに成長して

イノベーション失敗パターン⑥:【ようこそ、イノベーション創出という冒険の旅へ】

「 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 」 「 イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】 」 「 イノベーション失敗パターン③:【遠い人】 」 「 イノベーション失敗パターン④:【効率的作業組織 vs イノベーション創出組織】 」 「 イノベーション失敗パターン⑤:【創造性】 」 の続きです。

イノベーション失敗パターン⑤:【創造性】

「 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 」 「 イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】 」 「 イノベーション失敗パターン③:【遠い人】 」 「 イノベーション失敗パターン④:【効率的作業組織 vs イノベーション創出組織】 」 の続きです。

イノベーション失敗パターン④:【効率的作業組織 vs イノベーション創出組織】

「 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 」 「 イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】 」 「 イノベーション失敗パターン③:【遠い人】 」 の続きです。

イノベーション失敗パターン③:【遠い人】

「 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 」 「 イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】 」 の続きです。 前回はこんな投げかけで終わりました。 「技術革新を伴わないイノベーションは、もしかしたら先進的なイノベーションかもしれません。今日的なイノベーションなのかもしれません。ただ、技術革新を伴わない方が優れている明快な理由があります。    ぜひ想像してみてください。何だと思いますか?」  

イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】

この記事は、前回に続いて、ある顧客企業の社内メルマガのために私が書いた文章である。まだ1回目をご覧になっていない方はぜひ①を先に読んでいただきたい。 『 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 』 というのも、①は「間違い探し」クイズのようになっていて、今回の②以降で間違い部分を解説していく。

イノベーション人材が育つ環境は「辺境」

イノベーション人材とは、何かしら狭い範囲の特徴を持つ、限定的な、似たり寄ったりの人達のことを指しているのではない。 当社がよく使用している当社の能力要素9項目は、共通して持っていることが多い、というだけのもので、高ければ高いほどいいけれども、それがないと始まらないという類いのものではない。イノベーション人材は独自性が強いことが多く、つまり多様である。 多様性がイノベーションを生むという考え方があるが、私の考えでは、それももちろんあるが、多様性を許容、あるいは尊重するような組織は独自性の強い社員が育つ環境を持っているということであり、そうした個人がイノベーションを生む、というメカニズムもあると考えている。 そうした独自性の強い”個”が育つ組織はどのような組織か? 面白いことに、1つの会社の中でも、イノベーション人材が育つ組織と育たない組織が両方あったりもする。あなたの会社はどうだろうか。感覚的に理解できる方も少なくないのではないだろうか。 イノベーション人材が育ちやすい”場所”は様々だが、共通して言えるのは、一言で言えば「辺境」である。辺境という言葉は、中央から遠く離れた地域や国境付近のことを意味する。中央というのは、「本社」や「本社機能の間接部門」という意味もあるかもしれないが、それよりも、1つの会社が複数の事業を持っている時、どうしてもメインストリームとそうでない事業があるものである。そのメインストリームが中央であり、そうでない事業が辺境である。 インフォーマルな言い方の方がぴったり合うのだが、大きな会社になればなるほど、「偉い」とされている部門があるものである。誰も明文化はしていないが、組織の序列のようなものである。往々にして出世コースとも関係が深い。このような、偉くてぴかぴかの部門が中央であり、序列の下の方が辺境である。 また、こういう言い方もできる。会社(またはグループ)全体の売上や利益のうち、大きな比率を稼いでいる本流事業のような事業と、そうではない脇役的な事業がよくある。前者が中央で、後者が辺境と言ってもいい。 こうした辺境の方がイノベーション人材は育ちやすい。もちろん、辺境部署なら必ずイノベーション人材になるわけではないが、イノベーション人材と言える人々を一人ひとりつぶさに見ていくと、そういうところの経験が大きな原点となっている人が非常に多い。 逆に言

イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~①

ある顧客企業では、人事部で社員向けのメルマガを発行している。グループ企業を合わせると何万人も従業員がいる巨大企業である。この企業では、「イノベーション」をキャッチフレーズに掲げていた。 メルマガの担当者の方からのご依頼で、「イノベーションの失敗パターンから学ぶ」と題して寄稿した文章を書いたことがあった。これが私の予想を大きく上回る反響、好反応をいただいたので、一部このために変更して、紹介したい。 その前に。このメルマガは、他の回も読ませていただいたが、1回1回の文字量が非常に多い。私も13ページも書いてしまった…。そんな超長文メルマガを、発行直後から、あんなに大きな反響をいただくほどに沢山の社員の皆さんが読んでくださっていること自体が物凄いことだ。ぜひメルマガのタイトルぐらい紹介したいところだが、社内メルマガなので一応控えておく。 そういうわけで、何回かに分けて連載の形を採りたい。 まず第1回は、イノベーションに関する「間違い探し」のクイズのようなものである。次回以降、その解説が続くが、ぜひそれを読む前に、あなた自身にも考えていただきたいと思っている。 しかも、私が「間違い」だと指定したものは、ひょっとしたら視点を変えれば間違いではないかもしれないし、他にも「間違い」はあるだろう。そういったことに気付いた方がいらっしゃったら、ぜひ「お問い合わせ」の方からコメントをしていただけると嬉しい。

経営の中でも最高難度:「イノベーション事業家」

イノベーション人材には「構想人材」と「実行人材」の2種類があり、前者の構想人材には「イノベーション・プロデューサー」と「イノベーション事業家」の2種類がある。 (参考記事『 イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」 』 『 イノベーション創出の最重要人物:「イノベーション・プロデューサー」 』) イノベーション事業家 ビジネスとして持続可能な、あるいは発展可能な状態を構想し、実現をリードする役割がイノベーション事業家である。現実には、プロデューサーと事業家を同一人物が兼ねているケースも多いと思われる。 これは、例えばグループ会社の経営を経験した人ならできるかと言えば、必ずしもできるとは限らない。じゃあ親会社の経営経験者ならできるかと言えば、それも必ずしもできるとは言えない。イノベーション事業家に求められる能力は、一般的な会社経営者や事業経営者に求められる能力とはまた別物である。 その違いの中で大きいと考えられるのは、リスクに対する姿勢である。一般的経営者はリスクを把握した上で、それを取るか取らないかを判断する。イノベーション事業家は、もちろんそういうケースもあるが、それに加えて、自分でリスクを軽減することが求められる。元々が高リスクのステージなので、そういう行為が重要な意味を持つ。 また、高いリスクを取りたがる人はイノベーション事業家には向いていない。 ただし、こうした話は一般論であり、例外はたくさんあるので一概にそうでなければならない、という言い方はできない。 いずれにしても言えるのは、イノベーション事業家がすべきことは経営の中でもかなり難しいことであり、自分独自の事業創造の方法論を持っているということは言えるかもしれない。独自の方法論を持っているということは、自分の中で戦略・戦術に組み立て方を工夫・試行錯誤して考え、検証してきた経験知がある、ということだろう。 しかしながら付け加えなければならないのは、そんな試行錯誤と検証が、今の日本で許される環境というのが多くあるだろうか。もちろん、多少そんな余裕のある業界トップ企業もあるかもしれないが、そう多くはないかもしれない。いずれにしても、「余裕」がある状況がなければイノベーション人材、特に構想人材は育ちにくい。 また、大企業社員に時々いるが、もし自分が小規模企業の経営をしたら簡単にうまくいく、と考えて

イノベーション創出の最重要人物:「イノベーション・プロデューサー」

別の記事で書いたが(『 「イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」 』)、大きく分ければイノベーション人材は2種類に分けられる。それがイノベーション構想人材と実行人材である。非常に単純化して言えば、構想人材は実行人材の能力の上に、構想力を持った人材である。実行人材には、従来にない構想に対して「面白い」と思って自分なりに考えて実行する能力が必要である。これも簡単に見えて実際には結構難しい。 この2タイプをより深く理解していただくためにも、それぞれを2タイプずつ、合計4タイプに分けたいと思う。 イノベーション構想人材 イノベーション・プロデューサー イノベーション事業家 イノベーション実行人材 イノベーション実験家 イノベーション遂行家 イノベーション・プロデューサー イノベーションをプロデュースする人が最上位にいるべきである。プロデューサーがいないとイノベーションの創出はなかなか難しい。イノベーションを掲げる企業にとっては最重要の人材だが、残念なことに、一般的に言われている「イノベーション人材」は、どうやらプロデューサーはあまり含んでいないように見える。 プロデューサーの役割を理解していただくためには、イノベーションも分類しておきたい。「構想イノベーション」と「実現イノベーション」の2種類である。構想イノベーションとは、それまでのゲームのルールや顧客のライフスタイルを変えたり、従来とは異なる視点で事業や商品を位置付けたものである。 実現イノベーションは、そこまでのことを狙わない。構想があればその実現のための革新であり、構想がなければ、従来のゲームのルールの延長線に乗った上で起こす小さな進歩である。例えば、外出時でも自宅のペットの様子が見えるアプリがあるが、これは実現イノベーションと考えられる。従来なかったものだが、従来の延長線上である。 日本企業が「イノベーションを起こそう」と提唱して、その結果出てきた事業や商品にはこの「実現イノベーション」が多い。ほとんどと言っていいかもしれない。ただし、そのうちの非常に多くのケースで、構想があるようには少なくとも見えない。 この構想の大元やきっかけを作るのがプロデューサーの役割である。その中でも重要なのが、「顧客の視点で『そもそもの問い』を投げかける」という行為である。『そもそもの問い』は、従来のサプライヤーが提供

イノベーション人材を考えるなら、まず自分がイノベティブであれ

正直に表明しておくと、時々、人事のご担当者の行為がいやになることがある。どういう時かというと、「自社の社員のダメ出しばかりする評論家」になっておられる時である。 人間の能力というものは、必ずコインの裏表のように強い部分と弱い部分がセットになっている。もちろん、総合した時に誰もが同じレベルにあるということはない。しかし、能力が低いからといって、なぜか人間性まで否定するような発言をしているケースを見かける。中には社外にまで矛先を向ける。 私はそういう時も我慢して、うまく合わせて仕事を完遂させようと思っていた。もちろん、プロジェクトが始まる前にはそうしたスタンスが見抜けず、後から分かるケースもあり、それは仕方ない。だが、根本的な尊重が最初から欠けていると分かったら、仕事をお断りしている。あるいは二度とお受けしない(変化が見られない限り)。それは当社のスタンスとは違うからだ。 ただし、そうなってしまうのも分かる。それだけよく見えているということでもあるし、見える立場でもあるということだ。問題意識の強さでもある。しかし、それをやっていると、その方自身の成長は見込めない。「じゃあ、自分はどうなんですか?そんなに他者へのリスペクトがないことをどう考えるんですか?」という話だ。 同様に、「イノベーション」に関しても、イノベーション人材について理解が深まってくるにつれ、「なぜ自社社員がイノベーション人材ではないのか」と憤慨や失望をされているケースもある。問題意識としてはよくわかる。しかし、「では、あなたはイノベーションを起こそうとしているのか?イノベーション人材であろうとしているのか?」というと、その問題はどこか遠くにそっと置かれていることがある。自分は勉強が嫌いなのに、子供には「勉強しろ」と押し付ける親のようだ。 私が非常に重要だと思っているのはこのことだ。もし、社員にイノベーションを起こしてほしいのなら、その前か同時に、自分がイノベーションを起こそうとするべきだ。 私も同じだ。イノベーション人材・組織の発掘・促進をするなら、自分でイノベーションを起こすべきだ。実は、「 ドリル・アセスメント 」はそうして作ったものである。それがイノベーションかどうかは別にして、そうした試みを常にしていたいと思ったからである。 もし、イノベーション人材が自社の課題になっているという方がこれをご覧にな

イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」

イノベーション人材のタイプには、大きく分けると2種類がある。 イノベーション構想人材 イノベーション実行人材 これらは、当社が音頭を取って開催したイノベーション研究会「FURICO」が出した結論の1つである。 「イノベーション人材」という言葉は今でこそよく聞かれるようになったが、多くの場合、構想人材を指しているように見える。つまり、何らかの革新的な事業や商品の開発を発想し、計画するような人である。これについては、別の記事で、もう少し細分化して説明したいと思う。 (『 イノベーション創出の最重要人物:「イノベーション・プロデューサー」 』 『 経営の中でも最高難度:「イノベーション事業家」 』) イノベーションの創出において、実行人材も同様に重要である。構想人材が自分の構想を、自ら実行することはよくある。しかし、それだけだと難しいというケースは極めて多い。したがって、実行人材を巻き込むことが肝となるケースが多い。 イノベーション実行人材とは、単純化して言えば、構想人材が考えた構想に対して、「それ、面白いかもしれない!」と思い、その実現のために自分でも工夫をしながら前進させていく人である。 そのためには「我事化」や「知的好奇心」が大変重要である。こうしたものを持っていて、それによって自分を”点火”できれば、その他の能力は「あればあるほどいい」という位置付けである。こうしたイノベーション実行人材は意外に多くない。構想人材も極めて少ないが、実行人材も少ないのが現状のように見受けられる。 当社の推計だが、イノベーション構想人材は日本の全労働人口の0.05~0.1%程度、実行人材は1~5%程度しかいない。その他はどういう人か。与えられた仕事を真面目にこなし、自分の”個人的”で”勝手な”好奇心から動いたりせず、我慢強く正確に仕事をやり続ける人たちがその中心である。この人たちは「効率的作業組織」においては大事だが、「イノベーション創出組織」においての優先順位は下がる。 つまり、日本は全体的に言えば、「効率的作業組織」でハイパフォーマンスを発揮する人たちを育ててきた。今もそれは変わらない。それが悪いわけでもないが、それは「イノベーション創出組織」でのハイパフォーマーの姿とはかなり違い、そういう人たちを育ててきていない。もっと正確に言えば、そういう人たちが育つ環境を用意していないケース

【事例】新規事業のためのイノベーション人材発掘

ある企業では、「イノベーション人材アセスメント」を活用して、実験的な新設部署のメンバーを社内公募から選んだ。 この新設部署は、AIを活用して事業の効率性を高める試みを企画・開発・実行していく部隊であり、情報システム部門などの本社機能の中ではなく、事業部の中に新設された。その部署のトップには、他社から経験豊富な方がヘッドハンティングで入社し、就いた。 さて、メンバーは2人ぐらいから始めたいが、そのトップは当然誰が適任かは知る由もない。そこで社内(事業部内)公募をすることになったが、どうやって選んだらいいか。そこで当社に相談をしてくださった。というか、「イノベーション人材アセスメント」に興味を持っていただき、実験を兼ねて採用していただいた。このソリューション以外にも、もう1つ、無料で試せるイノベーション創出能力を測るアセスメントがあるというので、並行して実施することになった。 実際には、5人の応募があった。5人ならトップが全員と面接をして選んでもいいのだが、1人あたり1~2時間話したぐらいでイノベーション創出能力について何が分かるかというと、現実的にはかなりハードルが高い。過去に各現場でイノベーションを起こした、あるいはそれを試行した人材がごろごろいるような会社ならそれでもいいかもしれないが、この会社はそうではなかった。まさに人材を「発掘」する必要があった。 そういう会社なので、当社で用意しているイノベーション人材評価のための基準を用いた。別ページ(「 イノベーションを創出する人財・組織 」)にある、9つの創造的知的能力に関わる要素である。 しかし、「イノベーション人材かそうではないか」という2択ではない。当社ではイノベーション人材にも2種類(大括り)または4種類(詳細)を定義している。特に、大括りの2種類というのは、イノベーション構想人材とイノベーション実行人材と呼んでいる(『 イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」 』参照)。イノベーション実行人材も、その存在は大変重要である。この企業では、この2種類も判定し、基本的には、構想人材を優先するが、実行人材も検討対象として除外しないことになった。 たった5人の応募だったが、これまでに同じ設問で受けた母集団の受検者に混ぜて解析するため、自動解析のためのリードタイムは通常の2.5日と変わらない。 採用ドリル

日本人管理職の最大の弱点、「創造性」

私は約20年、様々な人材の能力アセスメントに関わってきたが、そのほとんどは日本人である。そのうち、新卒採用でない部分で言えば、おそらくその8割以上は日本企業に勤めている方々である。管理職になる手前ぐらいの方が多く、経営層候補、事業部長なども含まれている。多くはインタビュー形式のアセスメントである。 そうした人材に共通する強みや弱みがある。おそらく、アセスメントに直接携わったことがない方からすると驚くほどだろうと思うが、企業によって色がある。ただ、そうした企業によっての特徴も、個人個人の特徴も均した時の強みと弱みである。 強みとしては、バイタリティ系の能力や、ストレス耐性系の能力、情報や状況を把握する能力が共通している。要は、情報を正確に理解して、粘り強く、我慢強く最後までやり切る、という人の姿を思い浮かべてもらえれば、それが日本のホワイトカラーの管理職層の典型像と言える。これに加えて、ここ20年ほどは、統計的な検証はしていないが、徐々に分析力系の能力が高まっているように思う。 共通する弱みは、創造性系の能力と戦略策定系の能力、俯瞰系(ビジョン構築や長期的な計画力など)の能力の3分野である。強みと合わせて典型像を言語化するなら、 「情報を正確に理解して論理的に分析し、粘り強く、我慢強く最後までやり切るが、今までにないやり方、人と違うやり方を自分で考えることが少なく、現場視点ではあるが視点が低い。」 という像になる。 しかし、創造性というものは、測定が難しい。人が人を「創造的だ」と思うのは、人が何らかのアウトプットをしたものを見て初めて言えることだからだ。「この絵はクリエイティブだなぁ」などと。アセスメントが評価するのも、何か構想したアウトプットに、目新しさがどれほど見てとれるか、といったことである。 しかし、創造性というものは、思考プロセスなのである。思考といっても左脳的というよりは右脳的で、直感的である。人の頭の中は、かち割っても見ることができない。 しかも創造性は定義でさえ難しい。定義がなければ測定もできないし、測定方法が限られているのでそれに合わせた定義は意味が薄れたりもする。私は創造性を「自分の知識にないことを考え出す思考プロセス」だと定義しているが、定義や測定方法についてご関心があればぜひ心理学の論文や書籍を探ってみていただきたい。どれだけ難しいかがお分かり

創造性とは、伸ばせる能力なのか?

ドリル・アセスメント では、創造性を測定しやすい。それはアウトプット能力全般に関わる。 よくこういう声を聞く。「自分はクリエイティブな仕事に就いてないから…。」広告代理業のクリエイティブ職や、アニメ制作会社のアニメーター職がその「クリエイティブな仕事」だと思っていらっしゃるのかもしれないが、言っておくが、全ての仕事はクリエイティブになり得る。創造性を使う余地がある。命令には絶対服従をすべき軍隊の1歩兵であっても、ほふく前進で創意工夫できるかもしれない。 創造性というものは、何も、光るビジネスアイデアや商品アイデアがポンっと降りてくるような能力とは限らない。心理学でも創造性のことは色々と語られているが、もっとあらゆる場面で使うものである。毎日同じ経路で往復している人にとって、寄り道や経路を変えることも創造性だろう。何か全く別の目的を合わせてやることも創造性だろう。スポーツで、フォームやスウィングなど、新たに試してみたい体の動かし方を思い付くことも創造性だろう。 おそらく、上記の例を読んで、「そりゃそうだよね、うん、それが創造性だよ、当然。」という風に感じられた方は、高い確率で創造性が高いと思う。「えっ、そんなものまで創造性なの?そうは思ってなかった…。」と感じられた方は、申し訳ないのだが、高い確率で創造性が低いと思う。 なぜそう言えるかというと、創造性は誰もが身に付けられる能力である。(もちろん、その程度には個人差があるが、基本的に思考ができる人の中には、全く身に付けられないという人はいない。)しかし、それを身に付けていない人というのは、自分で身に付けることを遮ることをしているから身に付けていないのである。 それはつまり、自分で却下しているのである。あるいは否定しているのである。もっと言えば、自分は何かを創造できない人間だと思っているのである。できないことが先で、自己否定が後なのではない。自己否定があるからできないままなのである。現に私自身も、特に10代、20代ぐらいの頃は、まさか自分が創造的だとは思っていなかったし、客観的に言っても違うと思う。しかし特に30代以降、創造性は増してきた。 では、創造性のハイパフォーマーを分析してみよう。よく、「アイデアマン」(もちろんアイデアウーマンでもいい。)と呼ばれる人がいる。あなたの周りにも1人は思い当たる方がいるのではないだろ

採用:取り組んでいる間に「この会社に入りたい」と思うようになる入社試験

「 採用ドリル・アセスメント 」活用の成功例として挙げられるのは、「採用ドリル・アセスメント」を最初の入社試験として応募者に課すことで「この会社に入りたい」と思っていただいた事例である。 この企業では、1週間以上にわたって、平日は毎日設問が出題される。最終出題日の翌日にはもう全問の締切なので、溜め込んでしまうとなかなか大変である。当初は、この企業の採用担当の方も、負荷をかけすぎてはいないかと心配していた。 もちろん、そういう方もいらっしゃることは否定できない。エントリーして、この試験の受験資格がある人のうち、およそ半数が全問回答できない、またはしない。平均すると1問あたりの回答に数百文字を書いているので、それだけでも、その期間はずっとこの企業のことが応募者の頭の中にあったことだろう。それを乗り越えただけでも、相当真剣にこの企業に入社したいと思っていることが見て取れる。実際、この企業では、全問回答がこの試験の第一条件である。 エントリーシートに、誰かのコピペかもしれない美辞麗句を「志望動機」としている応募者(もちろん、そうではなく、懸命に自分の言葉で書いている人たちもたくさんいるはずだが)を拾い上げるかもしれない… それがエントリーシートである。(参考記事:『 御社ではしていませんか?【ひどい採用面接①】「いきなり志望動機の質問」 』) 私は以前から、エントリーシート廃止論者である。もちろん、氏名や連絡先は必要だろうが、それ以外の意味のないことをなぜ書かせるのか、甚だ疑問である。ましてや、つぶさに読んでいない企業も多い。読まないかもしれないことをなぜ書かせるのか。 別の企業で、採用担当の方がこんなことを言っていた。「量が多くて大変なんですけど、読めというのが会長の教えで、仕方なく読んでいるんです。」会長のおっしゃる意味もよくわかる。しかし、目的なく読んでいる場合は、読んでいないことよりももっと問題かもしれない。それだけの時間を使って、どんな価値を出したのか。日本のホワイトカラー労働生産性が世界で何位なのか、ご存知なのだろうか。 「 採用ドリル・アセスメント 」は、日本(だけではないが)のホワイトカラー労働生産性を上げることに貢献するためにやっていると言ってもいい。生産性とは、アウトプット÷インプットである。生産性というと、インプットの効率性、つまり時間やコストの効率化

新卒採用:不人気配属先の人手不足を解決する

「 採用ドリル・アセスメント 」で、多かれ少なかれイノベティブな活用法が実際にされている。 ある企業では、「 採用ドリル・アセスメント 」を使った新卒採用プロセスを進める中で、一つの大きな悩みを抱えていた。まだ完全に解決したとまでは言い切れないので、「~抱えている」と言う方が正確かもしれない。 大きな悩みとは、タイトルの通り、応募者に不人気な配属先があること。その部門は、製造という、この企業の中でも人数が必要な機能を担っており、この企業内の「人手不足指数」のようなものがあったとしたら、間違いなくこの部門の人手不足指数は高いだろう。これは「メーカーあるある」と言えるかもしれない。 トータル(この企業の平均)の人手不足指数は、他社と比べたら低い方だろうと思う。それほどの人気企業である。しかし、この企業内全体の人手不足指数から採用人数を想定し、普通に内定を出す確率を考えて母集団を決定すると問題が生じる。製造部門だけは配属人数が不足するか、不足しなくても、希望していないけれども「仕方なく」配属される人が多く存在することになる。 これを解決する方法の1つは、母集団を増やすことだろう。しかし、それにはかなりのコストがかかり、そしてコストをかけても母集団が増やせる保証はない。 それに対して、当社からその解決策として提案したのは、この企業が実施する「 採用ドリル・アセスメント 」の中で、1つ設問を増やし、この製造部門への配属を希望するかどうかを尋ねるという方法だった。希望するかどうかだけではなく、その理由なども訊く。 なぜそれが解決策になり得るかというと、配属先の希望というものは、内定者に訊くか、もしくはエントリー段階で訊くことが多い。あるいは全く訊かないか。アンケート形式のような形で第一希望のみを訊くと、「営業」「マーケティング」などという答えが数多く返って来る。しかし、営業の希望者でも、製造を希望しないとは限らない。第3希望ぐらいには入るかもしれない。「製造を希望するかどうか?」とピンポイントに訊くと、応募者の中の一定数は「自分は営業希望だけれども、製造も絶対に嫌というわけではない」などと(そんな表現はしないだろうが)書くだろう、という予測があった。 もちろん、「自分は営業希望であり、製造配属なら無意味なので、他社を優先する」という人もいるだろう。あるいは逆に、「製造を一番希望

ハイパフォーマーの重大な共通項、「修羅場経験」

ある、かなり大規模な企業で、事業部長や部長クラスの方々を対象としたインタビュー・アセスメントを実施したことがあった。 どの会社でのインタビュー・アセスメントでも同様だが、時々、「飛び抜けたハイパフォーマー」がいらっしゃる。お話を聴いていて本当に楽しいし、インタビュアー個人にとってもとても勉強になったりもする。いわゆる”サラリーマン”というよりは優秀な事業経営者であり、何かしらの凄みがにじみ出る。インタビュー時間もあっという間に過ぎてしまう。 ちなみに、彼ら・彼女らは「話し方がうまい」とは限らない。つまり、自分の話を魅力的に飾り、興味を惹き付け続けるような構成で話す、というような方とは限らない。話し方が下手なことは決してないが、話し方のせいでインタビューが楽しいのではない。むしろ、ほとんどの方に共通して、こちら(インタビュアー)の質問に対して的確に、冗長になり過ぎずに答える。これは実はインタビュイー(インタビューの対象者)のうち、私の経験の中では、せいぜい1~2割の方しかできていない。半分前後のインタビュイーは質問と答えがずれてしまう。 他にもいくつか共通項はあるのだが、私はある時、「もしかして、こんな共通項があるのか?」と思い、過去のインタビュイーについても記録を調べてみたことがある。何に気付いたかというと、表面的には様々なものなのだが、非常に厳しい状況に1人で置かれたことが、半年~2年ぐらい続いていた、という体験が共通していると思ったのである。 調べて集計してみた結果、インタビューでは過去の背景情報を全て聞き出しているわけではないので、そのような体験があったかなかったか定かではないという人を除いた人のうち、81%の人がこうした体験をしていた。やっぱりそうか、と唸った。 言い訳するわけではないが、その体験には色々なものが含まれているので、共通しているとはなかなか気付けなかった。例えば、ヨーロッパのある国に一人で送り込まれて人脈も何も文字通りゼロの状態から現地法人を立ち上げたとか、下手をすると数百億円の赤字を出すリスクがあった事業の火消しに送り込まれたとか、大口の顧客企業との間で起こった大トラブルの解決を1人で任されたとか…。 それは私はよく理解できた。自分にも自分の会社が倒産しかけ、顧客トラブルもあり、この経営者として難しい時期を乗り越えたことで、自分の「OS」が変

研修で人は育たない

研修で人が成長するかと言うと、まず無理だ。研修のファシリテーターをやっている私がそういうのもどうかとも思うが、真実だし、あまりにも世の中にそこを公言している人が少ないのであえて言いたい。 もちろん、全ての研修で、全員が成長することがあり得ない、と言っているわけではない。ただ、研修を企画された方々は往々にして、参加者全員が成長することを期待していらっしゃる。まず一旦、全員が研修で成長なんかできないと諦めた方がいいと私は考えている。そこから初めて、「じゃあ少しでも効果を出すためにどうするか?」「成長を促進するために、研修以外に何をしたらいいのか?」という視点が出てくる。 この視点が重要なのは、「研修をやれば社員の成長効果が出るはず」という日本企業(だけではないと思うが)にある伝統的な暗黙の前提が明らかに間違っていることが多いからだ。 その前提がどうやってできたかと言えば、明治時代以降に作られた会社において、あるいは第2次大戦後の日本企業において、海外との情報ギャップが大きく、海外にあって日本にない知を採り入れる場として確立されたと思われる。今、そんなギャップが大きく存在するだろうか。 また、そうした時代の日本では、第1次産業(農業・漁業など)から第2次産業、あるいは第3次産業に移ってきた従業者が多かったわけで、戦後の「集団就職」はその象徴である。その従業者たちの多くは高等教育を受けていなかったこともあり、内容は高等教育とは違うにせよ、知識教育は重要だったと言える。今、研修参加者で、そういう人がどれだけ存在するだろうか。 つまり、単純化して言えば、知に飢えた時代だった。学べる知は途方もないほど存在していて、それが飯を食っていくために必要不可欠な時代だった。そして、学べば学ぶほど、それが直接的な理由ではなかっただろうが、自分ができる仕事が増え、その質が上がり、給料は上がり、生活はみるみる良くなって安定し、社会全体も同様だった。という時代だった。 もうお分かりの通り、現代の日本は既に全然違う世の中である。先進国は多かれ少なかれ似た状況にある。私の実感値としては、中国人の参加者の多くには、そういう時代の日本がそうだったのだろうが、「ギラギラ」がある。 私があらゆる教育において最も重要だと思うのは、この「ギラギラ」や「飢えている」状態である。それが全く望めない状態で研修を実施する

新卒採用の隠れたイノベーション

ある企業では、新卒採用でイノベーションを起こしたと言って過言ではない。 イノベーションと言うと、例えば、iPodなどのように、それまでもあった市場の中にそれまでになかった製品(群)が登場して、それが顧客の生活・ライフスタイルを変えるほどのインパクトを与え、業界全体がこぞってそれに追随することで業界の暗黙の「ゲームの論理」が変わってしまうことを指すことが多い。 この企業は、顧客の生活・ライフスタイルや業界内のゲームの論理をまだ変えたとは言えないが、それは新卒採用というものの性質が関係していると思われる。新卒採用の場合は顧客市場とは違って、採用する人数は多くても数十人、数百人のレベルなので、顧客に広く浸透することは第一義のゴールではないとも言える。 もしそれが第一義のゴールの一つだとお感じになる採用担当の方がいらっしゃるとしたら、母集団形成のベンダーのうたい文句に毒されている可能性があるかもしれない。(冗談です。念のため。) また、業界全体を変えるという点についても、新卒採用は、ありとあらゆる企業が「一つの業界内にいる状態」である。つまり、異業種であっても直接的なライバルである。したがって、ライバルに真似されないやり方を続けている方がいい。 そういった、イノベーションにつきまとう表層的な特性を除けば、小さなコストで大きな効果を得たという意味で、この企業は明らかにイノベーションだったと言える。 そういうわけなので、当然のことながらここでもその方法論を明かすことはできないが、問題ない範囲で解説をしたいと思う。 何をしたか。それまでやっていたwebテストの代替として、当社の採用ドリル・アセスメントを導入していただいた。ただ、ここでしたいのは当社商品の自慢ではなく、この企業がそれを活用したことでイノベーション級の費用対効果を得たことである。 「採用ドリル・アセスメント」とは、自由記述・自動評価のアセスメントシステムであり、当社が開発したものである。近い考え方の競合商品はAIを使ったものだが、残念ながら競うほどの精度にあるものはまだ見たことがない。 そのどこが活かせたのかというと、同社が面接で使っている能力要件(コンピテンシー)と同じものを測定できるという点である。webテストが測るのは主に学力だが、学力と能力要件はあまり比例しないことも多い。学力を最初に測ってスクリーニングする