ある企業では、新卒採用でイノベーションを起こしたと言って過言ではない。
イノベーションと言うと、例えば、iPodなどのように、それまでもあった市場の中にそれまでになかった製品(群)が登場して、それが顧客の生活・ライフスタイルを変えるほどのインパクトを与え、業界全体がこぞってそれに追随することで業界の暗黙の「ゲームの論理」が変わってしまうことを指すことが多い。
この企業は、顧客の生活・ライフスタイルや業界内のゲームの論理をまだ変えたとは言えないが、それは新卒採用というものの性質が関係していると思われる。新卒採用の場合は顧客市場とは違って、採用する人数は多くても数十人、数百人のレベルなので、顧客に広く浸透することは第一義のゴールではないとも言える。
もしそれが第一義のゴールの一つだとお感じになる採用担当の方がいらっしゃるとしたら、母集団形成のベンダーのうたい文句に毒されている可能性があるかもしれない。(冗談です。念のため。)
また、業界全体を変えるという点についても、新卒採用は、ありとあらゆる企業が「一つの業界内にいる状態」である。つまり、異業種であっても直接的なライバルである。したがって、ライバルに真似されないやり方を続けている方がいい。
そういった、イノベーションにつきまとう表層的な特性を除けば、小さなコストで大きな効果を得たという意味で、この企業は明らかにイノベーションだったと言える。
そういうわけなので、当然のことながらここでもその方法論を明かすことはできないが、問題ない範囲で解説をしたいと思う。
何をしたか。それまでやっていたwebテストの代替として、当社の採用ドリル・アセスメントを導入していただいた。ただ、ここでしたいのは当社商品の自慢ではなく、この企業がそれを活用したことでイノベーション級の費用対効果を得たことである。
「採用ドリル・アセスメント」とは、自由記述・自動評価のアセスメントシステムであり、当社が開発したものである。近い考え方の競合商品はAIを使ったものだが、残念ながら競うほどの精度にあるものはまだ見たことがない。
そのどこが活かせたのかというと、同社が面接で使っている能力要件(コンピテンシー)と同じものを測定できるという点である。webテストが測るのは主に学力だが、学力と能力要件はあまり比例しないことも多い。学力を最初に測ってスクリーニングすると、いわゆる超有名校の学生さんがメインターゲットにならざるを得ない。いや、メインターゲットにしたくてしているなら問題はないのだが、この会社では問題だった。
というのも、同社の新卒採用では「学歴不問」を標ぼうしているからである。そこにも理由があり、超有名大学の卒業生は、もちろん全員ではないが、なぜか財閥系の大企業が大好きである。潰れないし給与もいいし、多かれ少なかれ社会的ステータスもいまだにあるようである。それもまた理解できる(いや、本当はできない)。
そうすると、先述の通り、新卒採用では、異業種であっても財閥系から小規模のベンチャー企業までがライバル企業なので、そのような財閥系(だけに限らないが、いわゆるエスタブリッシュメント)が持つとされる好条件のために、この会社が素晴らしい学生を見つけて内定を出しても、そちらを選ぶ学生が多いのである。
そうすると、内定は多めに出しておかなければならない。そのためには、母集団形成も大きくしなければならない。やはり母集団形成ベンダーの高い要求は飲まざるを得なくなる。(最後の一文は冗談ですからね。)
その中から、広めに面接をしておく必要がある。もちろん、インターンなどの方法も含めて、いわば”濃い母集団形成”も重要である。そうするとコストがかかる。面接をしている採用担当者や他社員の人件費まで含めた実質コストは、あまり「知りたくない真実」のレベルだろう。
さて、そういうわけで、意図していないのに超有名大学の学生がメインターゲットになってしまい、その結果、内定歩留りが低いというのが実態としてあった。そして面接数は膨大で、担当者は「リクルートスーツを見ると吐気がする」と仰っていた。最初にそれをお聞きした時は冗談だと思って笑おうとしたが、残念ながら真顔だった。
(これをたまたま読んでくださっている就活中の学生さんがもしいらっしゃったら、ご自身のリクルートスーツを再検討していただきたいと心から願う。あれは元々は「失礼のないように」フォーマルなスーツという位置付けだったはずだが、学生さんの不安感から来る同調圧力が、それを「人と違わないように」という位置付けにしてしまっている。その結果、極めて失礼で有害なことをしているのだと、この「吐気」の話を聞いて思った。ぜひ「人と違うことをする勇気」を、せめてスーツぐらいでは持っていただきたい。あなたがエスタブリッシュメント以外の志望者なら。)
これに対して、採用ドリル・アセスメントが面接と同じコンピテンシーを、面接の前に見ることでスクリーニングできることとなり、必要面接数は大幅に削減できたのである。
さらに、学力を測らなくなったために、所属学校の多様性が大幅に上がった。内定者の声を伝え聞いたのだが、「うちのような大学にこんな会社から内定って、まずあり得ません。本当にありがとうございます。」と感動してくれる人も少なくなかったそうだ。
超有名校信者の方には信じ難い話だろうが、申し訳ないが、学校の名前や学力は入社してから求められる能力を保証しない。思考力という点では優秀な方は多いが、それも重要だが、それだけではないことも確かである。
そんな風に感動してくれる方がいたことが象徴するように、内定者が入社する比率は飛躍的に上がったと聞いている。
また、想定外の効果もあった。採用ドリル・アセスメントをやることによって、「この会社に入りたい!」と思ってくれる人が増えたようなのである。(それはまた別の機会に書きたいと思う。)それから、採用担当者の方が社長からの社内的な賞をこの件で受賞された。これも、私も非常に嬉しかった。
という風に、まだあまり知られていないが、いや、同社からすればあまり知られたくないことかもしれないが、これは採用ドリル・アセスメントを活用したイノベーション事例だと言って、全く過言ではないのである。
宮田 丈裕 (当社代表)
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