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【事例】某産業機械メーカー(前編):イノベーションへのあまりにも冷めた空気

ご相談をいただいたのは、産業機械のグローバル企業の技術部と人事部。ニッチと言っていい分野で高い市場シェアを持ち、日本法人は数百名の従業員が働いている。 この会社では、技術部発の新製品がしばらく出せていない状態だという。そこで、イノベーション創出の方法を学ぶ機会を作りたいというご相談だった。いわゆる「10%ルール」のような、勤務時間の一定割合を自由に、個々人の好きなテーマを深掘りをすることにあてる試みも以前にはなされたが、効果はほとんどなかったという。社長も技術部トップも新製品開発を奨励しているものの、現実に前に進んでいかない状態だった。技術部トップの方は、「やっていいと言われても、どうしたらいいのか分からない状態なのではないか」という仮説に基づいて学ぶ機会を作ろうと発案された。 このための企画を考える段階で色々とお話を伺った中で、私は私なりにいくつかの仮説を持つに至った。まず、技術部員の個人個人に新製品開発の能力があるかどうかとは関係なく、その発揮を阻害する組織的な要因があるのではないか、というものである。もっと具体的に言えば、この会社の事業ではプロジェクト単位で動くことがほとんどで、顧客企業から受注すると、技術部員はそこの工場に同社の製品あるいは技術を導入するために注力する。 このような産業機械業界だけでなく、IT業界(具体的にはシステムインテグレータ業界)や建設業界などもそうだが、プロジェクト単位で動く企業に非常に多いのは、「単年度黒字文化」とでも呼ぶべきものの存在である。それは、近年のプロジェクト会計が厳しくなった背景もあり、プロジェクト単位で利益を出すことを至上命題としており、そうすると基本的に1年度の中で黒字を出すことが求められる。 これは当然と言えば当然のことなのだが、イノベーション創出においては阻害要因になり得る。つまり、利益を出すまでの期間があまりにも短すぎるためにイノベーション創出のための実験期間がほとんど取れなくなるからである。この傾向、あるいは圧力はマクロ経済がデフレーションの傾向が強くなれば尚更強くなる。キャッシュの価値が上がってしまい、投資資産として保有すると、平たく言えば損になってしまうからである。さらには、コロナウィルスの問題によってデフレーション傾向は加速している(ご参考: 日本経済研究センター『コロナ下でのデフレ加速』 )。 つまり...

測定しにくいイノベーション能力、「人望/愛されキャラ」

当社では、 イノベーション人材に求められる能力的な要件 を用意している。これは、よくある社内のコンピテンシーとは扱い方が根本的に異なる。全ての要件が一定水準なくてはならないかというと、そういうわけでもない。あればあるほど素晴らしいが、一点集中突破型でもいい。 反省を込めて言うのだが、アセスメント結果を本人にフィードバックする時、本人の中で相対的に強みとして出てきた能力を褒めた上で、相対的な弱みを伸ばすことを促している。時々、「強みをもっと伸ばすという考え方をするのは良くないのか?」と訊かれるが、コンピテンシーの場合、足を引っ張るような弱みを解決する方が先決かもしれない。しかし、少なくともイノベーション人材の能力要件については、強みを伸ばす方向でもいいかもしれない。 その中で、イノベーション創出プロセスの中でとても重要な能力だが、非常に定義しにくいし、自分でコントロールして強化しようなどとするのが難しいために、当社の能力要件に入れていないものもある。その一例が「人望」と言ってもいいものである。 「あの人は人望がある」などという言い方をよく聞くが、一応、辞書で定義を調べると、だいたい、人望とは「大勢の人たちから尊敬されている状態」のことである。つまり、結果論なのである。尊敬を得るに至った過程で発揮した能力については何も示唆していない。 似たものとして「愛されキャラ」という日本語もある。「尊敬」とは少し違うのかもしれないが、「大勢の人たちから愛される性格(の持ち主)」というような意味だろう。これも結果論である。結果論だと、しかもそれが性格の話だと、自分では向上させるのが難しくなってくる。 イノベーション創出に大きく貢献した人達、特にリーダーシップを取った人達を見てみると、「人望」や「愛されキャラ」とでも呼ぶべきものをある程度共通して持っている。 この理由はある程度理解しやすい。イノベーション創出プロセスでは、従来ないことを創り出そうとしているため、そのモチベーションを継続させる拠り所が少なくなる。あるいは、イノベーションの種のようなものが、往々にして「無理難題」であることが多く、それでも「あなたの言うことなら協力してあげるか…」と思ってもらえるかどうかは確かに大きな要素である。 また、「人望」や「愛されキャラ」の難しさの1つは、それが性別あるいはジェンダーとある程度深く関...

【事例】某製造業企業の研究所に存在していたイノベーション阻害要因

ある製造業企業で、研究所のチームリーダーを対象とした研修が行われた。私はそのファシリテーターとして一部を担当させていただいた。その中では、当社の「イノベーション組織診断」を使った。 「イノベーション組織診断」とは、その名の通り、組織の状態がイノベーションを創出できる状態になっているか、ということを定量的に測定するものである。ただし、短時間で自分で結果も出せるセルフチェック形式もあるので、研修中でも簡単に扱える。 一見矛盾しているように見えるのだが、イノベーションは組織が産み出すということは言えない。つまり、「こういう状態にある組織は高確率でイノベーションを創出する」ということがなかなか言えない。 ただし、こうは言えるのである。「こういう状態にある組織は高確率でイノベーションを創出できない状態にある」ということだ。つまり、イノベーション創出を阻害する要因は共通性が高い。この診断はそれを測っている。 言い換えるなら、組織状態とはイノベーション創出の必要条件であって、十分条件ではない。 したがって、全体的に得点が高ければ、「イノベーションを創出できる条件は揃っている」ということを意味し、得点が低ければ阻害要因を取り除くことが必要となる。それはどれも簡単ではないが、イノベーション創出のためにリーダーシップを取るべき人がまず何をすべきかを考えるヒントになる。 この企業の研究チームリーダー、14名の皆さんはとても面白がって取り組んでくれていた。まず、セルフチェックの様式の質問紙に回答してもらい、それを自ら集計してもらった。質問紙はこのようなものである。(目的などは口頭で説明した。) 「【分野①】」と書いてあるが、分野⑥まであり、合計41問ある。セルフチェック形式ではなく、当社に回答を集めて集計する形なら、このようなレポートが送られてくる。(この研修では出力しなかったが、1名の方の実際の結果を出すとこのようになる。) 全体結果に続いて、6つの分野ごとの結果も表示されているのだが、6つの分野とは以下の通りである。 ”にっちもさっちも” ”恐怖政治” ”大企業病” ”硬直管理” ”依存” ”あくせく業務” それぞれがどういう意味か、なぜそれがイノベーションを阻害するかは別の記事で書きたいと思うが、大企業の場合、「大企業病」が低く(阻害要因として強く)なりやすく、それに続いて「依存」が...

イノベーション失敗パターン⑥:【ようこそ、イノベーション創出という冒険の旅へ】

「 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 」 「 イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】 」 「 イノベーション失敗パターン③:【遠い人】 」 「 イノベーション失敗パターン④:【効率的作業組織 vs イノベーション創出組織】 」 「 イノベーション失敗パターン⑤:【創造性】 」 の続きです。

イノベーション失敗パターン⑤:【創造性】

「 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 」 「 イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】 」 「 イノベーション失敗パターン③:【遠い人】 」 「 イノベーション失敗パターン④:【効率的作業組織 vs イノベーション創出組織】 」 の続きです。

イノベーション失敗パターン④:【効率的作業組織 vs イノベーション創出組織】

「 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 」 「 イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】 」 「 イノベーション失敗パターン③:【遠い人】 」 の続きです。

イノベーション失敗パターン③:【遠い人】

「 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 」 「 イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】 」 の続きです。 前回はこんな投げかけで終わりました。 「技術革新を伴わないイノベーションは、もしかしたら先進的なイノベーションかもしれません。今日的なイノベーションなのかもしれません。ただ、技術革新を伴わない方が優れている明快な理由があります。    ぜひ想像してみてください。何だと思いますか?」  

イノベーション失敗パターン②:【イノベーションの目的のジレンマ】

この記事は、前回に続いて、ある顧客企業の社内メルマガのために私が書いた文章である。まだ1回目をご覧になっていない方はぜひ①を先に読んでいただきたい。 『 イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~① 』 というのも、①は「間違い探し」クイズのようになっていて、今回の②以降で間違い部分を解説していく。

イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~①

ある顧客企業では、人事部で社員向けのメルマガを発行している。グループ企業を合わせると何万人も従業員がいる巨大企業である。この企業では、「イノベーション」をキャッチフレーズに掲げていた。 メルマガの担当者の方からのご依頼で、「イノベーションの失敗パターンから学ぶ」と題して寄稿した文章を書いたことがあった。これが私の予想を大きく上回る反響、好反応をいただいたので、一部このために変更して、紹介したい。 その前に。このメルマガは、他の回も読ませていただいたが、1回1回の文字量が非常に多い。私も13ページも書いてしまった…。そんな超長文メルマガを、発行直後から、あんなに大きな反響をいただくほどに沢山の社員の皆さんが読んでくださっていること自体が物凄いことだ。ぜひメルマガのタイトルぐらい紹介したいところだが、社内メルマガなので一応控えておく。 そういうわけで、何回かに分けて連載の形を採りたい。 まず第1回は、イノベーションに関する「間違い探し」のクイズのようなものである。次回以降、その解説が続くが、ぜひそれを読む前に、あなた自身にも考えていただきたいと思っている。 しかも、私が「間違い」だと指定したものは、ひょっとしたら視点を変えれば間違いではないかもしれないし、他にも「間違い」はあるだろう。そういったことに気付いた方がいらっしゃったら、ぜひ「お問い合わせ」の方からコメントをしていただけると嬉しい。

【事例】新規事業のためのイノベーション人材発掘

ある企業では、「イノベーション人材アセスメント」を活用して、実験的な新設部署のメンバーを社内公募から選んだ。 この新設部署は、AIを活用して事業の効率性を高める試みを企画・開発・実行していく部隊であり、情報システム部門などの本社機能の中ではなく、事業部の中に新設された。その部署のトップには、他社から経験豊富な方がヘッドハンティングで入社し、就いた。 さて、メンバーは2人ぐらいから始めたいが、そのトップは当然誰が適任かは知る由もない。そこで社内(事業部内)公募をすることになったが、どうやって選んだらいいか。そこで当社に相談をしてくださった。というか、「イノベーション人材アセスメント」に興味を持っていただき、実験を兼ねて採用していただいた。このソリューション以外にも、もう1つ、無料で試せるイノベーション創出能力を測るアセスメントがあるというので、並行して実施することになった。 実際には、5人の応募があった。5人ならトップが全員と面接をして選んでもいいのだが、1人あたり1~2時間話したぐらいでイノベーション創出能力について何が分かるかというと、現実的にはかなりハードルが高い。過去に各現場でイノベーションを起こした、あるいはそれを試行した人材がごろごろいるような会社ならそれでもいいかもしれないが、この会社はそうではなかった。まさに人材を「発掘」する必要があった。 そういう会社なので、当社で用意しているイノベーション人材評価のための基準を用いた。別ページ(「 イノベーションを創出する人財・組織 」)にある、9つの創造的知的能力に関わる要素である。 しかし、「イノベーション人材かそうではないか」という2択ではない。当社ではイノベーション人材にも2種類(大括り)または4種類(詳細)を定義している。特に、大括りの2種類というのは、イノベーション構想人材とイノベーション実行人材と呼んでいる(『 イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」 』参照)。イノベーション実行人材も、その存在は大変重要である。この企業では、この2種類も判定し、基本的には、構想人材を優先するが、実行人材も検討対象として除外しないことになった。 たった5人の応募だったが、これまでに同じ設問で受けた母集団の受検者に混ぜて解析するため、自動解析のためのリードタイムは通常の2.5日と変わらない。 採用ドリル...

新卒採用:不人気配属先の人手不足を解決する

「 採用ドリル・アセスメント 」で、多かれ少なかれイノベティブな活用法が実際にされている。 ある企業では、「 採用ドリル・アセスメント 」を使った新卒採用プロセスを進める中で、一つの大きな悩みを抱えていた。まだ完全に解決したとまでは言い切れないので、「~抱えている」と言う方が正確かもしれない。 大きな悩みとは、タイトルの通り、応募者に不人気な配属先があること。その部門は、製造という、この企業の中でも人数が必要な機能を担っており、この企業内の「人手不足指数」のようなものがあったとしたら、間違いなくこの部門の人手不足指数は高いだろう。これは「メーカーあるある」と言えるかもしれない。 トータル(この企業の平均)の人手不足指数は、他社と比べたら低い方だろうと思う。それほどの人気企業である。しかし、この企業内全体の人手不足指数から採用人数を想定し、普通に内定を出す確率を考えて母集団を決定すると問題が生じる。製造部門だけは配属人数が不足するか、不足しなくても、希望していないけれども「仕方なく」配属される人が多く存在することになる。 これを解決する方法の1つは、母集団を増やすことだろう。しかし、それにはかなりのコストがかかり、そしてコストをかけても母集団が増やせる保証はない。 それに対して、当社からその解決策として提案したのは、この企業が実施する「 採用ドリル・アセスメント 」の中で、1つ設問を増やし、この製造部門への配属を希望するかどうかを尋ねるという方法だった。希望するかどうかだけではなく、その理由なども訊く。 なぜそれが解決策になり得るかというと、配属先の希望というものは、内定者に訊くか、もしくはエントリー段階で訊くことが多い。あるいは全く訊かないか。アンケート形式のような形で第一希望のみを訊くと、「営業」「マーケティング」などという答えが数多く返って来る。しかし、営業の希望者でも、製造を希望しないとは限らない。第3希望ぐらいには入るかもしれない。「製造を希望するかどうか?」とピンポイントに訊くと、応募者の中の一定数は「自分は営業希望だけれども、製造も絶対に嫌というわけではない」などと(そんな表現はしないだろうが)書くだろう、という予測があった。 もちろん、「自分は営業希望であり、製造配属なら無意味なので、他社を優先する」という人もいるだろう。あるいは逆に、「製造を一番希望...

ハイパフォーマーの重大な共通項、「修羅場経験」

ある、かなり大規模な企業で、事業部長や部長クラスの方々を対象としたインタビュー・アセスメントを実施したことがあった。 どの会社でのインタビュー・アセスメントでも同様だが、時々、「飛び抜けたハイパフォーマー」がいらっしゃる。お話を聴いていて本当に楽しいし、インタビュアー個人にとってもとても勉強になったりもする。いわゆる”サラリーマン”というよりは優秀な事業経営者であり、何かしらの凄みがにじみ出る。インタビュー時間もあっという間に過ぎてしまう。 ちなみに、彼ら・彼女らは「話し方がうまい」とは限らない。つまり、自分の話を魅力的に飾り、興味を惹き付け続けるような構成で話す、というような方とは限らない。話し方が下手なことは決してないが、話し方のせいでインタビューが楽しいのではない。むしろ、ほとんどの方に共通して、こちら(インタビュアー)の質問に対して的確に、冗長になり過ぎずに答える。これは実はインタビュイー(インタビューの対象者)のうち、私の経験の中では、せいぜい1~2割の方しかできていない。半分前後のインタビュイーは質問と答えがずれてしまう。 他にもいくつか共通項はあるのだが、私はある時、「もしかして、こんな共通項があるのか?」と思い、過去のインタビュイーについても記録を調べてみたことがある。何に気付いたかというと、表面的には様々なものなのだが、非常に厳しい状況に1人で置かれたことが、半年~2年ぐらい続いていた、という体験が共通していると思ったのである。 調べて集計してみた結果、インタビューでは過去の背景情報を全て聞き出しているわけではないので、そのような体験があったかなかったか定かではないという人を除いた人のうち、81%の人がこうした体験をしていた。やっぱりそうか、と唸った。 言い訳するわけではないが、その体験には色々なものが含まれているので、共通しているとはなかなか気付けなかった。例えば、ヨーロッパのある国に一人で送り込まれて人脈も何も文字通りゼロの状態から現地法人を立ち上げたとか、下手をすると数百億円の赤字を出すリスクがあった事業の火消しに送り込まれたとか、大口の顧客企業との間で起こった大トラブルの解決を1人で任されたとか…。 それは私はよく理解できた。自分にも自分の会社が倒産しかけ、顧客トラブルもあり、この経営者として難しい時期を乗り越えたことで、自分の「OS」が変...

新卒採用の隠れたイノベーション

ある企業では、新卒採用でイノベーションを起こしたと言って過言ではない。 イノベーションと言うと、例えば、iPodなどのように、それまでもあった市場の中にそれまでになかった製品(群)が登場して、それが顧客の生活・ライフスタイルを変えるほどのインパクトを与え、業界全体がこぞってそれに追随することで業界の暗黙の「ゲームの論理」が変わってしまうことを指すことが多い。 この企業は、顧客の生活・ライフスタイルや業界内のゲームの論理をまだ変えたとは言えないが、それは新卒採用というものの性質が関係していると思われる。新卒採用の場合は顧客市場とは違って、採用する人数は多くても数十人、数百人のレベルなので、顧客に広く浸透することは第一義のゴールではないとも言える。 もしそれが第一義のゴールの一つだとお感じになる採用担当の方がいらっしゃるとしたら、母集団形成のベンダーのうたい文句に毒されている可能性があるかもしれない。(冗談です。念のため。) また、業界全体を変えるという点についても、新卒採用は、ありとあらゆる企業が「一つの業界内にいる状態」である。つまり、異業種であっても直接的なライバルである。したがって、ライバルに真似されないやり方を続けている方がいい。 そういった、イノベーションにつきまとう表層的な特性を除けば、小さなコストで大きな効果を得たという意味で、この企業は明らかにイノベーションだったと言える。 そういうわけなので、当然のことながらここでもその方法論を明かすことはできないが、問題ない範囲で解説をしたいと思う。 何をしたか。それまでやっていたwebテストの代替として、当社の採用ドリル・アセスメントを導入していただいた。ただ、ここでしたいのは当社商品の自慢ではなく、この企業がそれを活用したことでイノベーション級の費用対効果を得たことである。 「採用ドリル・アセスメント」とは、自由記述・自動評価のアセスメントシステムであり、当社が開発したものである。近い考え方の競合商品はAIを使ったものだが、残念ながら競うほどの精度にあるものはまだ見たことがない。 そのどこが活かせたのかというと、同社が面接で使っている能力要件(コンピテンシー)と同じものを測定できるという点である。webテストが測るのは主に学力だが、学力と能力要件はあまり比例しないことも多い。学力を最初に測ってスクリーニングする...

若手社員の昇降格に「ディスタント・アセスメント」を活用した事例

あるクライアントでは、当社サービス「ディスタント・アセスメント」をご活用いただいている。この企業では、管理職の昇降格には集合研修形式(アセスメント・センター方式)のアセスメントが実施されているが、それを経験の浅い層の昇降格判断に用いるには、色々とそぐわない点がある。 まず、何と言っても大きい要因は人数の多さである。経験の浅い社員層の中で、上司から昇降格を推薦された人は毎年100人前後であり、アセスメント・センター方式ではかなりのコストがかかる。また、同方式は2日間のプログラムであることが多いため、参加者が通常の仕事を抜け、交通費をかけて1ヶ所に集まり、宿泊や食事の費用も考慮に入れると、非常に高い実質コストになり得る。 アセスメント・センターがそぐわない点は、それがフォーカスするのが「マネジメント能力」中心である、ということでもある。経験の浅い層にはマネジメントを行っている人もいるし、そうでない人もいる。近い将来に求められていない能力を測ることは、目的からしても公平性からしても、あまり合わない。 後者の理由からインタビュー形式のアセスメントも検討されたそうだ。インタビューなら、マネジメント能力でなくても、コンピテンシーが設定されていれば問題なく能力を測定できる。ただし、1人あたりのコストはアセスメント・センターの半分になるかというと、おそらくそこまで安くはならないだろう。 一番ボトルネックとなるのは、人数の多さから来る、アセッサーの稼働にかかる費用と言える。それを解決するために、「ディスタント・アセスメント」では色々な費用抑制の工夫をしている。 残念ながらその中身を詳細に明かすことはできないが、おそらくアセスメント・センターの参加者1人あたりのコストの1/3以下、実質コストで考えれば控えめに考えても1/4以下ではないかと考えられる。 同時に高いクォリティを保つよう努めている。もちろん、アセッサーの努力の賜物である。ただ、アセッサーにとっても、このアセスメントをすることがとても勉強になり、また、楽しいものでもある。 もちろん、「ディスタント」(遠隔)とある通り、受検者は自宅でもどこでも、つまりどこかに集まらなくても実施できるものでもある。 ただ、「ディスタント・アセスメント」も万能ではない。システム的に処理する検査類などのアセスメントに比べればコストは高いし、精度の担保...

離職率の高さとイノベーションの意外な関係性

ある会社が離職率の高さを問題視していた。この会社は、大きな括りで言えば"B to B"のサービス業であり、顧客企業のためにカスタマイズしてサービスを提供している。 厳密に言うと、離職率が他社に比べて飛び抜けて高いかどうかは分からない。そこも問題かもしれないが、むしろもっと重要な問題は、「顧客企業からも感謝されるような、優秀なサービス提供者が次々に辞めていく」ことだそうだ。 辞める理由として本人達が挙げることで最も多いのが、「やりたいことが今後もできそうもない」ということだったという。 こうした現象に対して、少なからず影響を及ぼしているのではないかと私が気付いたのがこの会社の組織文化である。非常に強いトップダウンの指示系統があり、要するに「上の言うことが絶対」であり、いわゆるマイクロマネジメントをしている管理職が多そうに見える。 現に、この会社が私達と共に取り組もうとしている内容にも上位層からストップが何度もかかった。この会社としての事情、歴史、文化、戦略を尊重した上で言うが、「何のためにそんな細かいことを気にしているのか」理解が難しいケースもあった。 このケースの難度は非常に高い。この問題に取り組むプロジェクトのメンバーの方々は非常に問題意識が高く、本気でこのことを問題視していた。しかし、その問題の本質的原因にあるのは組織文化であり、かなり根本的な変革を目指すことを、多かれ少なかれ、意図しようとしまいと、意味してしまう。その挑戦はまず間違いなく、その組織文化によって阻止されてしまう。 組織文化とは、エドガー・シャイン氏の定義に基づいて言えば、「メンバー個々が持ち、組織として共有している暗黙の前提」のことである。組織文化は、人が2人以上集まって特定の目的を果たそうとする場合に、必ず持つものと心理学では認識されている。それは何のためにあるかと言うと、「組織」という幻想を共有し、それを同じ形で持続するためであると考えられる。ある意味、動物には必ずある「種族保存本能」の代替機能であると言えるのかもしれない。転職して全く異なる組織文化を持った会社に移ったことのある方なら、おそらく容易に理解していただけるのではないかと思う。 繰り返すが、組織文化は多かれ少なかれ「組織が同じ形で持続するためにある」ものなので、多かれ少なかれ変化を嫌...

新卒採用:「自己肯定感」を測定

ある製造業企業で、新卒採用で「自己肯定感」を測定している。 自己肯定感とは、自分自身を肯定的に捉え、自分の意志や希望に対して前向きに向き合い、その実現のために努力するといった感覚のことを言っている。 元々は、この企業の人事を見ていた部長が、ご自身の経験や社内外での学びから得た知見を基に、自己肯定感を新卒採用における能力要件の最重要項目の1つとして設定することを希望されていた。残念ながら、自己肯定感を測定するアセスメントはさほど多くはなかった。 当然のことながら、自己肯定感が低すぎるのは良くないが、高すぎるのも良いとは言えない。例えば、自身を過大評価して、現実的にできないことまでできるような気がしてしまう、ある意味、いわゆる「中二病」も高すぎる自己肯定感だろう。自分が現実には無力である部分もある程度客観的に把握した上で、「それでも自己を肯定する」とするような感覚とも言える。 ちなみに、自己肯定感は「能力」なのか、というと、判断の難しいところである。自己肯定「感」が、自己肯定「力」でないことからもそれを暗に示しているとも考えられる。能力の場合、本人が意識しようと思えば意識はできることが基本だと考えられる。能力には、トレーナブル(訓練可能)か、アントレーナブル(訓練不可能)かという側面もあるが、いずれも能力と言うことはできるが、これとはまた別である。 自己肯定感は、本人と親との関係性、幼少期から思春期にかけての経験の蓄積が大きな影響を与える社会的性格に属する要素だと考えられる。「性格」に近い要素になると、本人が意識して変えようとしても、不可能ではないが非常に難しいことになる。そう考えると「能力ではない」と結論付けたくもなるが、本人が意識して変えようとしても必ずしも理想的な変容ができるとは限らないのは能力も同じである。ただ、理想的な変容かどうかは別にして、能力の方が変えやすい。こうした意味で、自己肯定感は能力なのか、性格なのかというと、極めて微妙である。 話を元に戻すと、この部長は、ご自身の知見から、自己肯定感が本人の幸福実感度とほぼ比例していると考えていた。これは実証されたものではないかもしれないが、合理的である。 これは、私のインタビュー・アセスメント経験からもよく分かる話である。現在の自分がいかに幸福に恵まれた存在かという暗黙の前提があると...