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イノベーション失敗パターン④:【効率的作業組織 vs イノベーション創出組織】




【効率的作業組織 vs イノベーション創出組織】 
 
第1回のストーリーでは、Cさんは最初に「プロジェクトのプランと役割分担を決めておきます」と言っていました。ここにも穴があります。 
 
なぜだか分かりますか? 
 
穴とは、イノベーション創出の特性から来るものです。イノベーションでは、従来の事業のやり方とは違うやり方で何かしようとしています。ということは、どこがゴールなのかが分かり得ないのです。ゴールを設定したとしても、全く変わらないことは、ほぼあり得ないでしょう。ゴールが設定できない以上、計画は立てられませんよね。 
 
また、同様に、役割分担も、予め決めておくことは、たぶん難しいでしょう。何を達成したらいいかが予め分からないのがイノベーション創出です。それをどのようにタスクに分解し、各メンバーに割り振りましょうか?予め完璧にできたら、あなたはイノベーションの天才としか言いようがありません。 
 
先ほどの「遠い人」との出会いについても同じことが言えます。遠い人との出会いを完全に予測して計画を立てることなど、到底無理です。イノベーション創出プロセスは偶然性が強いことが多いものです。むしろ、それを楽しめるかどうかがポイントになり ます。 
 
他にも、例えば、イノベーション創出組織においては、時に「ホウレンソウ」が邪魔になることがあります。 
 
なぜかというと、いずれも、「効率的作業組織」を前提とした組織プロセスだからです。イノベーション創出では、ゴールが分かりませんから、「何が効率的か?」も分かりません。 
 
ところが、私たちは一般的には、「効率的作業組織」に慣れ親しんでいます。それが当たり前だと思っています。 「社会人の基本」ですね。PDCAとかホウレンソウとか…。それも時に必要ですが、しかしそれが時に困難ですし、邪魔にさえなります。 
 
あなたの組織、またはプロジェクトはどうですか?「効率的作業組織」的性格がどれくらい強いでしょうか? 




 
何か決められたことを、なるべく確実に実行するには「効率的作業組織」の方が良いことに疑いの余地はありません。しかし、何も決まっていないことを、「実行」ではなく「創っていく」ためには、「効率的作業組織」の前提からひっくり返さなくてはなりません。 
 
しかし、「効率的作業組織」にある暗黙の前提は、それに慣れた人たちにとっては、当たり前すぎて気付きもしません。 
 
B常務は「大黒柱事業部のエース」としてCさんを指名していましたね。同様の理由で、ここにも落とし穴があります。 
 
あくまで一般論ですよ。大黒柱になっているような組織は、相当な経営資源を投下されています。そうすると、かなり細かく分業化されていて、組織階層も深いことが、多くの企業でありがちです。 
 
このような組織は、「効率的作業組織的性格」が極めて強いわけです。そうすると、 C さん個人がどうかは分かりませんが、一般的には効率的作業組織が持つ暗黙の前提を強く持っているかもしれません。 
 
「エース」というのも微妙、ということにお気付きになりました?気付いていたら、 あなたは鋭いです。エースというのは「効率的作業組織でのエース」ですからね。 
 
ただ、それはそれで当然です。イノベーション・リーダー、例えば、スティーブ・ジョブズのような人が効率的作業組織のあちこちにいたら、結構うまくいかないことが多いだろうと思います。「いやいや、リリースまで時間が迫っているこの時に、そんなそもそも論をぶちまけないでよ~」という感じの発言も多いかもしれませんね(笑)。 
 
イノベーション創出組織には、これも FURICO コンセプトの一つですが、「余裕と切迫の振り子」が必要です。 
 
基本的には、効率的作業組織は「切迫」でマネジするケースの方が多いと思います。 単純化して言えば、「いつまでにこれをやらないとこんなことになってしまう」という論理が支配する組織です。 
 
イノベーション創出組織では、切迫感も必要なのですが、ある程度長い期間で、いくらぐらい以上の営業利益を上げる、などといった、大枠での切迫感を持つことが重要です。 
 
その一方で、「余裕」も必要です。例えば、「ある程度長い期間」が与えられたら、その中で何をしようと自由です。 
 
ただ、余裕だけで切迫がなければ、メンバーが興味本位でフラフラするだけで、何も現実化しないでしょう。逆に、切迫だけで余裕がなければ、極めて発想の範囲が限定されたことしか現実化しないでしょう。それはつまり、市場にも投資家にもインパクトの小さいことを意味するでしょう。 
 
あなたの組織は、余裕と切迫がどれくらいの比率で存在するでしょうか? 
 
逆に言えば、あなたがイノベーション創出組織を作ろうとリーダーシップを取るなら、 まずは余裕を確保することが大事ですね。先ほどのストーリーでは、社長が介入してきて「どうなってるんだ!?」なんて言っていましたね。このような、あまりに短期的な介入は、はっきり申し上げて、イノベーション創出の邪魔になります。 
 
だからこの 2 つの要素の「振り子」が重要なのです。(はい。FURICO という名前はここにひっかけています。一応、”Frontiers Undertake and Realize Innovation with Creativity and Openness.”の頭文字を取っていますが、これは後付けです(笑)) 。 
 
(続く)


宮田 丈裕 (当社代表)


次回のシリーズ第5回はこちら:


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