この記事は、前回に続いて、ある顧客企業の社内メルマガのために私が書いた文章である。まだ1回目をご覧になっていない方はぜひ①を先に読んでいただきたい。
というのも、①は「間違い探し」クイズのようになっていて、今回の②以降で間違い部分を解説していく。
【イノベーションのジレンマ】
さて、どこが失敗の原因になっていたと思いますか?
まず、最も大きいかもしれないのは、FURICO コンセプトで、私たちが「イノベーションのジレンマ」と呼んでいるものです。これは、イノベーション分野で有名なクリステンセン教授が提唱した『イノベーションのジレンマ』とは完全に別物です。それも確かにジレンマなのですが、こっちも大きなジレンマです。
どういうことか?
FURICO コンセプトでいう「イノベーションのジレンマ」とは、イノベーションが目的化すると、人はどうしても「新しい事業や商品・サービスを作ろう」としてしまいます。そこが最大の落とし穴といってもいいかもしれません。それによって顧客視点、ユーザー視点が後回しになってしまう、つまりプロダクトアウトになってしまうのです。だから「誰がこんなもの買うんだ?」状態になってしまうのです。
むしろ、イノベーションは「結果的にイノベーションになる」のです。意外に多くの(結果的)イノベーション事例において、「顧客の無茶振り」が起点になっています。例えば「価格を半額にしなければ、おたくへの継続発注を切る」という無情な顧客の声とか。もちろん、それだけではありませんが。
「イノベーション」という言葉は、「技術革新」と訳されることがあります。「新しい技術が新たな利益を生み出すんだ」という考え方が暗黙のうちにあります。
本当にそうでしょうか?
もちろん、イノベーションには新しい技術を伴っているケースもあります。しかし、新しい技術を開発して、利益どころか、このストーリーのように、とんでもない損失を残してこの世から姿を消したものも山ほどあります。おそらくその方が多いと思います。
つまり、新しい技術を開発することがイノベーションの必要条件ではない、ということです。
例えば、1980 年代に発売された、ソニーのウォークマン。あれが出てくるまでは、いわゆる「ラジカセ」という、持ち運ぶにはでっかい代物がありました。それと技術的に比べてどうでしょうか?
もちろん、小型化するのには大変な苦労があったと伝えられています。ただし、機能面で見れば、「カセットテープ再生機に特化」しただけです。録音機能を削り、ラジオやスピーカーなどの機能もなくしただけです。「新しい技術」という「足し算」ではなく、むしろ「引き算」です。
イノベーションを目的化すること。しかも、新しい技術を開発して事業化・商品化することを目的化すること。ここに大きな失敗原因があります。
では、どうすればいいのか?
FURICO コンセプトでは、イノベーションを「構想イノベーション」と「実現イノベーション」の 2 種類に分類しています。イノベーションには両方必要なのですが、「構想イノベーション」がないケース、あるいは後回しになるケースが多いのです。
日本企業が得意だとされているイノベーションは、どちらかといえば「実現イノベーション」の方です。しかし、グローバル競争でより重要になるのは「構想イノベーション」です。「ゲームのルール」を変えるような行為です。「実現イノベーション」は、既定のゲームのルールの中で、より良くすることです。
イノベーションを創出したければ、構想イノベーションが先です。実現イノベーションはその構想を実現するためのイノベーションであり、どこで新しい技術を開発しなけ
ればならないか、ということは構想によって決まるはずです。ウォークマンの場合、「よ り美しい録音ができる機能」よりも「小型化」だったわけですね。
もっと言えば、イノベーションにおいて、技術革新を伴わないケースが、結構たくさんあります。
例えば 2000 年代に一世を風靡した Apple の iPod は典型例かもしれません。それまでのポータブルレコーダーに HDD を足しただけといっても過言ではありません。それでも、イノベーションを起こしました。
ポータブルレコーダー市場の(あるいは iTunes と合わせて音楽市場も、かもしれませんが)「ゲームのルール」を変えてしまいました。
技術革新を伴わないイノベーションは、もしかしたら先進的なイノベーションかもしれません。今日的なイノベーションなのかもしれません。ただ、技術革新を伴わない方が優れている明快な理由があります。
ぜひ想像してみてください。何だと思いますか?
(続く)
宮田 丈裕 (当社代表)
次回のシリーズ第3回はこちら:
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