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ビジネス着眼とは伸ばせる能力なのか?(ドリル受検対策⑥)

 結論から先に言えば、「ビジネス着眼」という能力項目も、十分に訓練可能なものである。決して先天的なものでもなく、伸ばせない能力でもなく、ビジネスの経験がなくても伸ばせるものである。


とはいえ、もちろん、ほぼ先天的にビジネス感覚の鋭い人はいるし、逆に、ビジネスに興味のない人だっている。なので、程度の差はあるが、それを伸ばしたいと思って効果のある方法を採っていれば訓練して伸ばすことはできる。





この「ビジネス着眼」という能力は、ノウハウやスキルとは別の次元のものである。近年はビジネス的なノウハウを提供している動画や文章が非常に増えている。集客方法、マーケティング方法、売上を伸ばす方法などといった、小規模ビジネス向けのノウハウから、効率的な仕事の進め方、コミュニケーション方法など、もっと一般的なノウハウや専門分野のノウハウまで、あらゆるノウハウに溢れている。


そういうもののうち、あなたが興味をもったノウハウを学ぶことを止めはしないが、それだけでは「ビジネス着眼」は伸びない。その学びをあなた自身の仕事の実践にどう活かすか、どこをどう変えるか、どこがうまくいってどこがうまくいかないか、うまくいかないところをどう解決するか…こうしたことを考えることで「ビジネス着眼」が伸びる可能性が出てくる。


つまり、ビジネス・ノウハウは、あたかもそれが唯一の正解であるかのように提示されることが多いが、それは必ずしも真実ではない。唯一の正解などこの世には存在せず、一瞬存在したとしても常に変化する。実際、たった5年前に提供されていたwebマーケティングのノウハウは、今でも全て有効かと言うと、そうではない。


むしろ、「唯一の正解などこの世には存在せず、一瞬存在したとしても常に変化する」ということを前提としないと、「ビジネス着眼」の能力は伸びないだろう。そこが出発点である。ちなみに、ビジネス・ノウハウがメディアに溢れていることは、ビジネス着眼、ビジネス感覚、ビジネス視点を作る上で邪魔になると私は考えている。なぜなら、独立・起業しようという人が、当たり前のように”正解”を求め、それに忠実にやることがビジネス上の成功の秘訣であると大いなる勘違いをするからだ。それはその人の成功の秘訣ではなく、ノウハウ提供者の成功の秘訣でしかない。(だからこそ、あたかもそれが唯一の正解だと思わせるような表現をしているケースが多い。)


もうお分かりいただけている方も多いだろうが、「ビジネス着眼」を伸ばすために効果的な方法は、「どうビジネスを展開させたらいいかを自分で考える」ことに他ならない。


昔は、「ビジネス着眼」のような能力を身に付けようとすると、「まずは日経新聞を毎日読め」などとビジネス系メディアに触れることを強制してくるオトナが多かったものだが、これはさほど害はないが、「害がない」程度である。必ずしも「ビジネス着眼」を伸ばしてはくれない。なぜなら、そうしたメディアを見ているだけでは、必ずしも自分で考えようとはしないからだ。だからむしろ、そうしたメディアを見たいのなら、「自分ならどうするか?」「もっと良い方法はないか?」と、自分の頭で考えることが必要である。


(余談ではあるが、日本の地上波TVではクイズ番組が多く、その中には正解をたくさんできる回答者を「思考力がある」というように扱うものも多いが、この誤解には害があると私は思う。思考力の中でも高度なのは、「より多くの知識を持って、それを瞬時に、正しく引っ張り出す」ことよりも、「正解の存在しない複雑な問題について、自分なりに答えを見出す/作り出す」ことだからだ。つまりインプットに力点のある思考力よりも、アウトプットに力点のある思考力の方が価値を創り出す。クイズ番組のそういう扱い方は、インプット系思考力をさらに重視することを助長し、その偏った重視がビジネスにおいてはノウハウやビジネス系メディアに触れることに向かわせるのである。)


ただ、それだと、例えば文学や工学や医学を専門的に学んでいる学生さんなどにとっては雲を掴むようなものだろう。あるいは、会社に勤めていながらも、研究や生産、購買、総務、人事、一般的な事務などを主にやってきた人にとっても同様だろう。そういう方々が「ビジネス着眼」を伸ばすなら、まずはビジネス全般の構造を理解することはかなりショートカットになるはずである。


「ビジネス全般の構造」とは、ビジネスにはどのような要素があり、それがどのように関連していて、意思決定者がどういう風にするとどうなるのか、ということである。ゲームで言えば、ゲームをプレイする上で何がキモなのかを初期に理解しないと、ゲームを進めていきづらいし、なかなか面白く思えない。それと同じで、「ビジネスをプレイする上でのキモ」を理解した方がいい。


それには、会計学が一番いいと私は思う。専門的に学ぶ必要は全くないが、「ビジネス全体の構造を理解する」という目的を忘れずに会計学を学ぶと、得るものは非常に大きいと思う。経営者になれば重要な会計用語は共通言語のような性格もある。ただし、会計学だけではビジネスの力学的な部分(つまり業界や市場の構造など、外部・内部の経営環境について)は理解しにくいので、戦略やマーケティングや組織やオペレーション、ビジネスモデルなどを薄く広く(もちろん深く広くでも構わないが)学ぶのが望ましいと思う。


さて、重要なのはその後である。「唯一の正解はない」と理解することと、ビジネスの構造を理解することはスタートラインに立つこと、あるいはスタートダッシュをより速くしてくれるものに過ぎない。「その後」とは、繰り返しになるが、「どうビジネスを展開させたらいいかを自分で考える」ことであり、アウトプット系思考力を鍛えることである。


そのための題材としては、ビジネス系メディアもいいかもしれないが、どんなメディアでも切り取り方には既に主観的な視点や誘導したい結論が入っているので、一番いいのは、”生”のビジネス事例である。自分が勤めている会社でもいいし、所属している事業部でもいい。取引先でも、あなたのパートナーや友達が勤めている会社でもいい。そういうビジネス組織のトップがあなただったら、あなたは具体的にどうするかを考えるといい。その思考を重ねれば重ねるほどいい。


さらにいい(と同時に難易度も高い)のは、自分が新しいビジネスを創るとしたら、どうするか、という問いに対する思考である。どんなビジネスでもいい。自分で否定しないでいただきたい。(そのためにはこちらの記事もご参考にしていただきたい。「創造性とは、伸ばせる能力なのか?」)あなたが興味を持った業界やターゲット顧客セグメントに対して、そういう状況の中で、「あなただったらどうするのか?」という問いである。


そういう風に考える中で大事なのは、「唯一の正解など存在しない」ということである。答えが合っていたかどうかは、ビジネスの場合、”顧客”の反応にしか現れない。いかに正解に近いかは本当にどうでもいい。極端に単純化して言えば、顧客にとって、競合よりも魅力的であるかどうかしか重要ではない。


こういう思考を重ねれば「ビジネス着眼」は伸ばせる。自分自身でビジネスの立ち上げや運営を経験できるなら大チャンスだが、経験が自動的にこの能力を伸ばしてくれるものでもない。「自分ならどうするか?」と考え続けるかどうか次第である。



宮田 丈裕 (当社代表)




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