スキップしてメイン コンテンツに移動

【事例】新規事業のためのイノベーション人材発掘


ある企業では、「イノベーション人材アセスメント」を活用して、実験的な新設部署のメンバーを社内公募から選んだ。




この新設部署は、AIを活用して事業の効率性を高める試みを企画・開発・実行していく部隊であり、情報システム部門などの本社機能の中ではなく、事業部の中に新設された。その部署のトップには、他社から経験豊富な方がヘッドハンティングで入社し、就いた。

さて、メンバーは2人ぐらいから始めたいが、そのトップは当然誰が適任かは知る由もない。そこで社内(事業部内)公募をすることになったが、どうやって選んだらいいか。そこで当社に相談をしてくださった。というか、「イノベーション人材アセスメント」に興味を持っていただき、実験を兼ねて採用していただいた。このソリューション以外にも、もう1つ、無料で試せるイノベーション創出能力を測るアセスメントがあるというので、並行して実施することになった。

実際には、5人の応募があった。5人ならトップが全員と面接をして選んでもいいのだが、1人あたり1~2時間話したぐらいでイノベーション創出能力について何が分かるかというと、現実的にはかなりハードルが高い。過去に各現場でイノベーションを起こした、あるいはそれを試行した人材がごろごろいるような会社ならそれでもいいかもしれないが、この会社はそうではなかった。まさに人材を「発掘」する必要があった。

そういう会社なので、当社で用意しているイノベーション人材評価のための基準を用いた。別ページ(「イノベーションを創出する人財・組織」)にある、9つの創造的知的能力に関わる要素である。

しかし、「イノベーション人材かそうではないか」という2択ではない。当社ではイノベーション人材にも2種類(大括り)または4種類(詳細)を定義している。特に、大括りの2種類というのは、イノベーション構想人材とイノベーション実行人材と呼んでいる(『イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」』参照)。イノベーション実行人材も、その存在は大変重要である。この企業では、この2種類も判定し、基本的には、構想人材を優先するが、実行人材も検討対象として除外しないことになった。

たった5人の応募だったが、これまでに同じ設問で受けた母集団の受検者に混ぜて解析するため、自動解析のためのリードタイムは通常の2.5日と変わらない。採用ドリル・アセスメントでは1回に5000人とか1万人が受けることもあり、人数が多くても可能だが、少人数でもオペレーション・プロセスは基本的に同じである。

したがって、当プロジェクトの関係者からも1人が「面白そうなので受けたい」とのことで、試していただいたが、そういう風に「せっかくだから受けておこう」という人も歓迎している。

ただし、ドリル・アセスメントはモチベーションが結果に大きく影響する場合がある。プロジェクト関係者の方は「面白そう」と言っていたことからも、内発的動機があったために大きく影響しない(つまり十分なモチベーションがある)状態だと見受けられたが、プロジェクト事務局から「ま、細かいことはいいから、とにかく受けてみて」と言われて、このアセスメントに参加する特段のモチベーションがない状態だと、成績はどうしても低く出やすい。

このような設定で、6人の方が受検した。結果は、「面白そう」と言って受検したプロジェクト関係者が、母集団の上位5%に入る飛び抜けた結果だったが、肝心の5人はかなりばらつきがあった。

採用ドリル・アセスメントだとこれをリスト化して一刻も早く企業にお届けして全工程が完了するのだが、イノベーション人材アセスメントの場合はまだ終わらない。ここから定性的な分析が始まる。つまり、人間が読んで判断する部分を加える。

専門のアセッサーが読むと、その人が持ちやすい「視点」が見えてくる。つまり、設問に対して回答を考える時に、暗にどのような自問をしたのか、というのが視点を具体化したものである。イノベーション人材の2種類では、それぞれ視点が違う。したがって、回答者が2種類のうちどちらの視点を持っているのか、あるいは両方持っていないのか、両方持っているのか、というところを見ている。

その結果、5人のうち、1人だけがイノベーション構想人材として認定され、残りのうち2人がイノベーション実行人材として認定された。どちらにも認定されなかった人は2人だった。イノベーション構想人材の1人と、実行人材の中でも高成績を上げた人1人が面接に進み、見事、新規事業部署への異動を勝ち取った。

この企業が素晴らしいと思ったのは、むしろここからである。今回落ちた人が今後も何度でも受け、その間に現職でもできる成長を後押しするために、当社にコメントを書いてほしいという依頼をいただいた。そのために追加コストも負担してくださった。

そのコメントとして、「イノベーションを現職で起こすよう挑戦してください」と伝えることは何の意味もない。アセスメントをしたからこその利点は、能力要素に分解してあることである。例えば、「上位概念化」という要素が弱く、重要課題だという人には、

「日頃の業務について、『そもそもこれは何のためにやっているのか?』などといった視点で見返してみると良いでしょう」

などとコメントしている。

キャリアの中で一度でも失敗して「×」が付くと二度と出世できなくなるような、減点主義の会社も世の中にはあるが、イノベーション人材の育成のためにはこれが一番良くない。(実際、そういう会社がイノベーションを起こした事例は少なくとも私達は知らない。)失敗を許し、降格ぐらいはするかもしれないが、何度でも(あるいは何度目かまでは)許容される組織文化はイノベーションの必要条件である。(十分条件ではないが。)


宮田 丈裕 (当社代表)




※この記事は、引用・リンクは自由にしていただけます。
ただし、当社の会社名、記事の著者名を引用していただくことと、
どのようなサイトなどのメディアで取り上げるかを
当サイトの「お問い合わせ」から当記事タイトルと共にご一報いただくことを
条件とさせていただいております。



このブログの人気の投稿

知的好奇心とは何か?(ドリル受検対策②)

イノベーション人材に求められる能力 のうち、最も基本的で重要なものの一つは「知的好奇心」である。他にも「我事化」を 別記事 で挙げたが、「見たことがないものを見た時に知的好奇心が強まり、それを基にして我事化する」ことがなければ、イノベーションのその人自身のきっかけがなくなってしまう。 何度も言うようだが、世に言われるイノベーションは結果論である。それが創り出されるプロセスにおいては、それが多くの人のライフスタイルや常識を変えてしまうようなものになるとは、関係者全員が思っていないかもしれない。つまり、関係者にとっても「見たことがない」もので、「は!?何これ???」…言語化すれば、根底にパラダイムシフトを含んだものでもあったりするかもしれない。従来の枠組みや視点や価値観ではどうにも理解しようがないものかもしれない。 その時に発動させるべきものが知的好奇心である。「は!?何これ???」に続いて「面白そう…」とつぶやく精神と言ってもいいかもしれない。 イノベーション人材の能力は、「自分自身をイノベーション人材だと位置付けたい人」や「会社にイノベーション人材だと認定された人」だけに役立つものではない。「自分はイノベーション人材ではない」という人にとっても、基本的能力があると、周囲で起きるイノベーションの試みをむやみに否定しなくなる。これもとても重要なことだ。 知的好奇心とは、経験のない物事に対して興味を持つ心理的プロセスである。なぜ「好奇心」だけではなく、「知的」好奇心と言っているかというと、好奇心は高等動物全般が持つ、本能に基づくと思われるもので、「知的」が付くと人間特有のものになり、本能に基づかずに思考や心理メカニズムによって興味を持つことだからである。 好奇心は高等動物全般が持っているものと言ったが、そうであるとすれば、知的好奇心は人間全般が持っていてもおかしくないことになる。実際、ご存知の通り、特に人間の子供の1才から3才ぐらいの時期には、知的好奇心が強くて何でも触ったり食べたりしようとするので、むしろ危ないことも多いほどである。3才~6才ぐらいでは、「なんで?」という質問を連発したりする子も多い。 しかし、大人の人たちに「あなたは、自分が好奇心旺盛だと思いますか?」と尋ねると、実際に研修や講演で訊くのだが、「いいえ」と答える人はおそらく半分以上だ。あなた自身はどうだ

社員の顧客視点の劣化は会社にとって命取り

これを書いている今のつい数時間前の話だが、日本の某新聞社が、自社の電子版の広告キャンペーンをやっているのを目にした。そこでは、その新聞電子版のサブスクリプションを止めると「ビジネス実践力がつかない。つけるためには継続が大事。」というような内容を訴求していた。 私は甚だ疑問なのだが、これは何か証拠でもあるのだろうか。継続した人のグループと継続しなかった人のグループで、その人たちのビフォーとアフターとの差に有意な差があったとでも言うのだろうか。百歩譲って差があったというなら、本当にどんな職種においてもその差があると言えるものなのだろうか。 私がこう反論するのは、確信に近いものがあるからだ。まず関係ない。論理的に考えれば関係あるはずがない。「ビジネス実践力」をどう定義するかにもよるが、わざわざ「実践力」を切り取っているのだから、思考面は含めないと考える方が自然である。そうだとすると、人を動かしたり心を動かしたりする感受性を含めたコミュニケーション面や、他者と信頼関係を構築するところや、信頼関係を構築する過程でのパーソナリティの面、あるいは専門的なテクニカルスキルの面が主に関連してくる。新聞の電子版を読み続けると、コミュニケーション能力やパーソナリティやテクニカルスキルなどが上がるのだろうか。そうだとしたらその合理的な理由は一体何なのか。 二百歩譲って、「ビジネス実践力」には思考面やその前提知識も含まれているとしよう。そうだとすると、例えば私が関わらせていただくことの多い「経営視点」を養成するのに新聞を使うことはできる。簡単に言えば、「自分がその記事の当事者の立場だったとしたら、何を感じ、何を考え、どう解決しようとするか」を想像し、できるだけ多くの状況設定や選択肢を想定することで擬似経験の幅や当事者意識の強さを広げたり高めたりすることができるからだ。しかし、「新聞(の電子版)を読んでさえいれば自動的にビジネス実践力(なるもの)が伸びる」わけではない。そういう意図を持って読む必要があるからだ。 いや、広告では「自動的に伸びる」とは言っていない。私がわざわざこんな文章を書いてまでこの広告を問題視しなければならないと考えたのはそこに関係している。「サブスクリプションを止めると伸びなくなる」というような表現をすることで、少し大げさに言えば「脅し」ているわりに「自動的に伸びる」ことは

若手社員の昇降格に「ディスタント・アセスメント」を活用した事例

あるクライアントでは、当社サービス「ディスタント・アセスメント」をご活用いただいている。この企業では、管理職の昇降格には集合研修形式(アセスメント・センター方式)のアセスメントが実施されているが、それを経験の浅い層の昇降格判断に用いるには、色々とそぐわない点がある。 まず、何と言っても大きい要因は人数の多さである。経験の浅い社員層の中で、上司から昇降格を推薦された人は毎年100人前後であり、アセスメント・センター方式ではかなりのコストがかかる。また、同方式は2日間のプログラムであることが多いため、参加者が通常の仕事を抜け、交通費をかけて1ヶ所に集まり、宿泊や食事の費用も考慮に入れると、非常に高い実質コストになり得る。 アセスメント・センターがそぐわない点は、それがフォーカスするのが「マネジメント能力」中心である、ということでもある。経験の浅い層にはマネジメントを行っている人もいるし、そうでない人もいる。近い将来に求められていない能力を測ることは、目的からしても公平性からしても、あまり合わない。 後者の理由からインタビュー形式のアセスメントも検討されたそうだ。インタビューなら、マネジメント能力でなくても、コンピテンシーが設定されていれば問題なく能力を測定できる。ただし、1人あたりのコストはアセスメント・センターの半分になるかというと、おそらくそこまで安くはならないだろう。 一番ボトルネックとなるのは、人数の多さから来る、アセッサーの稼働にかかる費用と言える。それを解決するために、「ディスタント・アセスメント」では色々な費用抑制の工夫をしている。 残念ながらその中身を詳細に明かすことはできないが、おそらくアセスメント・センターの参加者1人あたりのコストの1/3以下、実質コストで考えれば控えめに考えても1/4以下ではないかと考えられる。 同時に高いクォリティを保つよう努めている。もちろん、アセッサーの努力の賜物である。ただ、アセッサーにとっても、このアセスメントをすることがとても勉強になり、また、楽しいものでもある。 もちろん、「ディスタント」(遠隔)とある通り、受検者は自宅でもどこでも、つまりどこかに集まらなくても実施できるものでもある。 ただ、「ディスタント・アセスメント」も万能ではない。システム的に処理する検査類などのアセスメントに比べればコストは高いし、精度の担保