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新卒採用:不人気配属先の人手不足を解決する


採用ドリル・アセスメント」で、多かれ少なかれイノベティブな活用法が実際にされている。

ある企業では、「採用ドリル・アセスメント」を使った新卒採用プロセスを進める中で、一つの大きな悩みを抱えていた。まだ完全に解決したとまでは言い切れないので、「~抱えている」と言う方が正確かもしれない。





大きな悩みとは、タイトルの通り、応募者に不人気な配属先があること。その部門は、製造という、この企業の中でも人数が必要な機能を担っており、この企業内の「人手不足指数」のようなものがあったとしたら、間違いなくこの部門の人手不足指数は高いだろう。これは「メーカーあるある」と言えるかもしれない。

トータル(この企業の平均)の人手不足指数は、他社と比べたら低い方だろうと思う。それほどの人気企業である。しかし、この企業内全体の人手不足指数から採用人数を想定し、普通に内定を出す確率を考えて母集団を決定すると問題が生じる。製造部門だけは配属人数が不足するか、不足しなくても、希望していないけれども「仕方なく」配属される人が多く存在することになる。

これを解決する方法の1つは、母集団を増やすことだろう。しかし、それにはかなりのコストがかかり、そしてコストをかけても母集団が増やせる保証はない。

それに対して、当社からその解決策として提案したのは、この企業が実施する「採用ドリル・アセスメント」の中で、1つ設問を増やし、この製造部門への配属を希望するかどうかを尋ねるという方法だった。希望するかどうかだけではなく、その理由なども訊く。

なぜそれが解決策になり得るかというと、配属先の希望というものは、内定者に訊くか、もしくはエントリー段階で訊くことが多い。あるいは全く訊かないか。アンケート形式のような形で第一希望のみを訊くと、「営業」「マーケティング」などという答えが数多く返って来る。しかし、営業の希望者でも、製造を希望しないとは限らない。第3希望ぐらいには入るかもしれない。「製造を希望するかどうか?」とピンポイントに訊くと、応募者の中の一定数は「自分は営業希望だけれども、製造も絶対に嫌というわけではない」などと(そんな表現はしないだろうが)書くだろう、という予測があった。

もちろん、「自分は営業希望であり、製造配属なら無意味なので、他社を優先する」という人もいるだろう。あるいは逆に、「製造を一番希望している」という人もいるし、こうした希望度合いを分類することができる。

実施した結果は、現時点では大成功だったと言える。およそ8割の応募者が「製造に配属されたら製造で頑張る」と表明してくれた。

そもそも、この企業の場合は応募者全員が大学生だったが、例えば「自分は営業をやりたい」と決めている大学生がいても、それが永遠に絶対とは言えない。気が変わることもあるだろうし、経験して適性が分かることもあるだろうが、もっとそれ以前に、その人のキャリアの目的に対する手段として営業が向いていないケースや、各職種への偏見や誤解が混ざっているケースも非常に多いからだ。

例えば、こういう応募者も多い。「私はコミュニケーションを得意としている。だから営業を志望する。」営業職に高いコミュニケーション能力が求められることは言うまでもないが、製造職が劣るとは限らない。業種にもよるが、製造部門の多くは多数の関係者が関わり、チームワークが強く要求される。リーダーシップが求められることも多い。これは例えば、個人プレーが多くて、リーダーになるのは優れた営業実績を残してから…ということの多い営業職と比べて、製造がコミュニケーション能力を活かせないということを、必ずしも意味しない。これは偏見や誤解と言っていい。

また、何よりも、「自分自身によるコミットメント」が極めて大事だと考えている。例えば、同程度の能力を持った2人の応募者がいたとして、1人が「内定をもらい、マーケティング希望を出した。しかし配属先は製造だった…」という具合に製造に配属されるのと、もう1人は予め配属先として製造を希望するかを尋ねられて、「第一志望ではないが、たとえ製造でも御社に入りたいし、そこで経験を積みたい」と表明した結果、製造に配属されるのとでは、同程度のパフォーマンスを発揮できるとは考えにくい。

ちなみに、配属先の希望を訊かない企業も、特に伝統的な企業ではあると思うが、応募者、ひいては従業員にとって、訊かれるのと訊かれないのとで、どちらが誠実に映るかと言えば、答えは言うまでもない。配属先の希望を訊かないことにも事情や背景や意図があるケースもあると思うので、一概に悪いとまでは言えないが。

この企業のケースは、「採用ドリル・アセスメント」を応用して、その一部で、能力を測るための設問ではなく、特定の配属先の希望度合いを訊くという従来にはない新たな試みをして課題解決に前進した、イノベティブな好事例と言えるのではないだろうか。

ただし、この設問への回答は、定性評価が必要となる。1件1件の回答をつぶさに読み、希望度合いを評点化している。自動解析部分もあるが、参考値にとどまる。そのため、上乗せでコストがかかるのと、あまり大人数の回答があると時間がかかってしまうというデメリットもあることは注記しておきたい。


宮田 丈裕 (当社代表)




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