スキップしてメイン コンテンツに移動

【事例】某製造業企業の研究所に存在していたイノベーション阻害要因


ある製造業企業で、研究所のチームリーダーを対象とした研修が行われた。私はそのファシリテーターとして一部を担当させていただいた。その中では、当社の「イノベーション組織診断」を使った。

「イノベーション組織診断」とは、その名の通り、組織の状態がイノベーションを創出できる状態になっているか、ということを定量的に測定するものである。ただし、短時間で自分で結果も出せるセルフチェック形式もあるので、研修中でも簡単に扱える。

一見矛盾しているように見えるのだが、イノベーションは組織が産み出すということは言えない。つまり、「こういう状態にある組織は高確率でイノベーションを創出する」ということがなかなか言えない。

ただし、こうは言えるのである。「こういう状態にある組織は高確率でイノベーションを創出できない状態にある」ということだ。つまり、イノベーション創出を阻害する要因は共通性が高い。この診断はそれを測っている。

言い換えるなら、組織状態とはイノベーション創出の必要条件であって、十分条件ではない。

したがって、全体的に得点が高ければ、「イノベーションを創出できる条件は揃っている」ということを意味し、得点が低ければ阻害要因を取り除くことが必要となる。それはどれも簡単ではないが、イノベーション創出のためにリーダーシップを取るべき人がまず何をすべきかを考えるヒントになる。

この企業の研究チームリーダー、14名の皆さんはとても面白がって取り組んでくれていた。まず、セルフチェックの様式の質問紙に回答してもらい、それを自ら集計してもらった。質問紙はこのようなものである。(目的などは口頭で説明した。)



「【分野①】」と書いてあるが、分野⑥まであり、合計41問ある。セルフチェック形式ではなく、当社に回答を集めて集計する形なら、このようなレポートが送られてくる。(この研修では出力しなかったが、1名の方の実際の結果を出すとこのようになる。)





全体結果に続いて、6つの分野ごとの結果も表示されているのだが、6つの分野とは以下の通りである。
  • ”にっちもさっちも”
  • ”恐怖政治”
  • ”大企業病”
  • ”硬直管理”
  • ”依存”
  • ”あくせく業務”

それぞれがどういう意味か、なぜそれがイノベーションを阻害するかは別の記事で書きたいと思うが、大企業の場合、「大企業病」が低く(阻害要因として強く)なりやすく、それに続いて「依存」が低い傾向がある。「あくせく業務」も近年は特に低くなりやすい。

もちろん、これは業種によっても、個別企業によってもかなり違う。例えば、規制業種は硬直管理が強い傾向があると思われる。

この製造業企業の場合は、14名の平均値としては、マイナスだったのが「大企業病」、「依存」、「あくせく業務」(マイナスの絶対値が大きい分野順)となった。特に大企業病は-0.85と、やや強い阻害要因になっている。

当然のことながら、14名全員が研究所の所属であるため、他部署も含めると違ってくる可能性があるが、この会社の研究職は全国各地の現場を飛び回っている人も多く、研究所だけに閉じた結果になっているというわけではないと推測される。また、質問の主語も「自社」や「自組織」が混ざっており、会社全体のことを客観視しているだけでも、自チームの個別事情にフォーカスしているだけでもない。そのミックスである。

しかしながら、阻害要因となっているように見える「大企業病」、「依存」、「あくせく業務」も、マイナス幅は手の付けようがないほど大きいわけではなく、各チームでやれることはあるし、それを研究所全体、そして会社全体に波及させることも不可能ではないはずである。そのような取り組みをしてくれているかもしれない。(残念ながらそこまでは不明。)

また、個人によってのばらつきが大きい分野と小さい分野がある。「大企業病」はばらつきが小さい。したがって、会社全体としてこの課題が強く影響を及ぼしていると推測できる。

ばらつきが一番大きかったのは、「恐怖政治」である。この企業では、マネジャーが人によっては強権は発動しすぎているが、全体的な傾向ではないことが推察される。

こうした課題を解決することは簡単ではないし、短期的にできることでもないだろう。しかし、このようなことを議論し、自分が個人としてできることや、自分も積極的に関わりながら全体として解決する方向性などをそれぞれ考えていただくことはとても有意義な時間だった。イノベーションに関係するような研修で、イノベーションについての考えを各人に聞けば、「イノベーションは大事だと思う」というようなことを答えるのは当たり前のことだし、それが阻まれることがあるというような話が出てくるのも自然である。

その中で、さらに一歩突っ込み、そうした阻害要因が具体的には何か、それをまず解決するとしたら何をすべきか、ということを考える機会はなかなかない。短期的成果には繋がらないからだ。しかし、じっくりと考えてもらうと、それが重大なことであることは理解していただける。それは私が14名の参加者を見ていて学びになったことだった。


宮田 丈裕 (当社代表)




※この記事は、引用・リンクは自由にしていただけます。
ただし、当社の会社名、記事の著者名を引用していただくことと、
どのようなサイトなどのメディアで取り上げるかを
当サイトの「お問い合わせ」から当記事タイトルと共にご一報いただくことを
条件とさせていただいております。









このブログの人気の投稿

イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」

イノベーション人材のタイプには、大きく分けると2種類がある。 イノベーション構想人材 イノベーション実行人材 これらは、当社が音頭を取って開催したイノベーション研究会「FURICO」が出した結論の1つである。 「イノベーション人材」という言葉は今でこそよく聞かれるようになったが、多くの場合、構想人材を指しているように見える。つまり、何らかの革新的な事業や商品の開発を発想し、計画するような人である。これについては、別の記事で、もう少し細分化して説明したいと思う。 (『 イノベーション創出の最重要人物:「イノベーション・プロデューサー」 』 『 経営の中でも最高難度:「イノベーション事業家」 』) イノベーションの創出において、実行人材も同様に重要である。構想人材が自分の構想を、自ら実行することはよくある。しかし、それだけだと難しいというケースは極めて多い。したがって、実行人材を巻き込むことが肝となるケースが多い。 イノベーション実行人材とは、単純化して言えば、構想人材が考えた構想に対して、「それ、面白いかもしれない!」と思い、その実現のために自分でも工夫をしながら前進させていく人である。 そのためには「我事化」や「知的好奇心」が大変重要である。こうしたものを持っていて、それによって自分を”点火”できれば、その他の能力は「あればあるほどいい」という位置付けである。こうしたイノベーション実行人材は意外に多くない。構想人材も極めて少ないが、実行人材も少ないのが現状のように見受けられる。 当社の推計だが、イノベーション構想人材は日本の全労働人口の0.05~0.1%程度、実行人材は1~5%程度しかいない。その他はどういう人か。与えられた仕事を真面目にこなし、自分の”個人的”で”勝手な”好奇心から動いたりせず、我慢強く正確に仕事をやり続ける人たちがその中心である。この人たちは「効率的作業組織」においては大事だが、「イノベーション創出組織」においての優先順位は下がる。 つまり、日本は全体的に言えば、「効率的作業組織」でハイパフォーマンスを発揮する人たちを育ててきた。今もそれは変わらない。それが悪いわけでもないが、それは「イノベーション創出組織」でのハイパフォーマーの姿とはかなり違い、そういう人たちを育ててきていない。もっと正確に言えば、そういう人たちが育つ環境を用意していないケース...

ビジネス着眼とは伸ばせる能力なのか?(ドリル受検対策⑥)

 結論から先に言えば、「ビジネス着眼」という能力項目も、十分に訓練可能なものである。決して先天的なものでもなく、伸ばせない能力でもなく、ビジネスの経験がなくても伸ばせるものである。 とはいえ、もちろん、ほぼ先天的にビジネス感覚の鋭い人はいるし、逆に、ビジネスに興味のない人だっている。なので、程度の差はあるが、それを伸ばしたいと思って効果のある方法を採っていれば訓練して伸ばすことはできる。 この「ビジネス着眼」という能力は、ノウハウやスキルとは別の次元のものである。近年はビジネス的なノウハウを提供している動画や文章が非常に増えている。集客方法、マーケティング方法、売上を伸ばす方法などといった、小規模ビジネス向けのノウハウから、効率的な仕事の進め方、コミュニケーション方法など、もっと一般的なノウハウや専門分野のノウハウまで、あらゆるノウハウに溢れている。 そういうもののうち、あなたが興味をもったノウハウを学ぶことを止めはしないが、それだけでは「ビジネス着眼」は伸びない。その学びをあなた自身の仕事の実践にどう活かすか、どこをどう変えるか、どこがうまくいってどこがうまくいかないか、うまくいかないところをどう解決するか…こうしたことを考えることで「ビジネス着眼」が伸びる可能性が出てくる。 つまり、ビジネス・ノウハウは、あたかもそれが唯一の正解であるかのように提示されることが多いが、それは必ずしも真実ではない。唯一の正解などこの世には存在せず、一瞬存在したとしても常に変化する。実際、たった5年前に提供されていたwebマーケティングのノウハウは、今でも全て有効かと言うと、そうではない。 むしろ、「唯一の正解などこの世には存在せず、一瞬存在したとしても常に変化する」ということを前提としないと、「ビジネス着眼」の能力は伸びないだろう。そこが出発点である。ちなみに、ビジネス・ノウハウがメディアに溢れていることは、ビジネス着眼、ビジネス感覚、ビジネス視点を作る上で邪魔になると私は考えている。なぜなら、独立・起業しようという人が、当たり前のように”正解”を求め、それに忠実にやることがビジネス上の成功の秘訣であると大いなる勘違いをするからだ。それはその人の成功の秘訣ではなく、ノウハウ提供者の成功の秘訣でしかない。(だからこそ、あたかもそれが唯一の正解だと思わせるような表現をしているケ...

社員の顧客視点の劣化は会社にとって命取り

これを書いている今のつい数時間前の話だが、日本の某新聞社が、自社の電子版の広告キャンペーンをやっているのを目にした。そこでは、その新聞電子版のサブスクリプションを止めると「ビジネス実践力がつかない。つけるためには継続が大事。」というような内容を訴求していた。 私は甚だ疑問なのだが、これは何か証拠でもあるのだろうか。継続した人のグループと継続しなかった人のグループで、その人たちのビフォーとアフターとの差に有意な差があったとでも言うのだろうか。百歩譲って差があったというなら、本当にどんな職種においてもその差があると言えるものなのだろうか。 私がこう反論するのは、確信に近いものがあるからだ。まず関係ない。論理的に考えれば関係あるはずがない。「ビジネス実践力」をどう定義するかにもよるが、わざわざ「実践力」を切り取っているのだから、思考面は含めないと考える方が自然である。そうだとすると、人を動かしたり心を動かしたりする感受性を含めたコミュニケーション面や、他者と信頼関係を構築するところや、信頼関係を構築する過程でのパーソナリティの面、あるいは専門的なテクニカルスキルの面が主に関連してくる。新聞の電子版を読み続けると、コミュニケーション能力やパーソナリティやテクニカルスキルなどが上がるのだろうか。そうだとしたらその合理的な理由は一体何なのか。 二百歩譲って、「ビジネス実践力」には思考面やその前提知識も含まれているとしよう。そうだとすると、例えば私が関わらせていただくことの多い「経営視点」を養成するのに新聞を使うことはできる。簡単に言えば、「自分がその記事の当事者の立場だったとしたら、何を感じ、何を考え、どう解決しようとするか」を想像し、できるだけ多くの状況設定や選択肢を想定することで擬似経験の幅や当事者意識の強さを広げたり高めたりすることができるからだ。しかし、「新聞(の電子版)を読んでさえいれば自動的にビジネス実践力(なるもの)が伸びる」わけではない。そういう意図を持って読む必要があるからだ。 いや、広告では「自動的に伸びる」とは言っていない。私がわざわざこんな文章を書いてまでこの広告を問題視しなければならないと考えたのはそこに関係している。「サブスクリプションを止めると伸びなくなる」というような表現をすることで、少し大げさに言えば「脅し」ているわりに「自動的に伸びる」ことは...