ある顧客企業では、人事部で社員向けのメルマガを発行している。グループ企業を合わせると何万人も従業員がいる巨大企業である。この企業では、「イノベーション」をキャッチフレーズに掲げていた。
メルマガの担当者の方からのご依頼で、「イノベーションの失敗パターンから学ぶ」と題して寄稿した文章を書いたことがあった。これが私の予想を大きく上回る反響、好反応をいただいたので、一部このために変更して、紹介したい。
その前に。このメルマガは、他の回も読ませていただいたが、1回1回の文字量が非常に多い。私も13ページも書いてしまった…。そんな超長文メルマガを、発行直後から、あんなに大きな反響をいただくほどに沢山の社員の皆さんが読んでくださっていること自体が物凄いことだ。ぜひメルマガのタイトルぐらい紹介したいところだが、社内メルマガなので一応控えておく。
そういうわけで、何回かに分けて連載の形を採りたい。
まず第1回は、イノベーションに関する「間違い探し」のクイズのようなものである。次回以降、その解説が続くが、ぜひそれを読む前に、あなた自身にも考えていただきたいと思っている。
しかも、私が「間違い」だと指定したものは、ひょっとしたら視点を変えれば間違いではないかもしれないし、他にも「間違い」はあるだろう。そういったことに気付いた方がいらっしゃったら、ぜひ「お問い合わせ」の方からコメントをしていただけると嬉しい。
さて、まずは、一つの単純なストーリーを読んでいただきましょう。これは、多くの実話を総合して創作したフィクションです。
たった一つの単純なストーリーなのですが、非常に多くのイノベーション失敗パターンが、多かれ少なかれこのストーリーと共通項を持っているのです。ぜひ、あなたが過去に経験した、または伝え聞いた新規事業や新規ソリューションの開発を思い出して、重ね合わせたり、比較したりしてみてください。また、どこが失敗の原因となっているか、「間違い探し」の要領で読んでみてください。
【イノベーションの失敗はワンパターン】
<A 社長> 既存事業の市場は飽和しているが、株主の期待に応え続けるには、新たな事業の柱を育てていかないといけない。何か少しずつ今までの改善をしていくのではなく、何か非連続的なものだ。そう、イノベーションを起こさないとならないのだ。次期ビジョンでは「イノベーション」という言葉をキーワードにしようと思っているんだ。 企画担当常務の B 常務、実際にイノベーションの創出を促進させてほしいんだ。
<B 常務> なるほど、イノベーションですか。わかりました。早速、我が社の大黒柱事業部のエース、C 君をプロジェクトリーダーにして、部門横断プロジェクトは発足させて、次の柱になるような事業を作っていくようにしましょう。
<C 部長> ・・・わかりました、常務。では、早速メンバーを集めてキックオフをしたいと思います。その際には、私からこのプロジェクトのプランと役割分担を決めておきます。
<C部長> (プロジェクト・ミーティングにて) ・・・というわけで、まずは幅広くブレストしようと思う。メンバーの皆さんにはビジネスアイデアや商品アイデアを出してほしい。何か全く新しいビジネスの種はないだろうか…。
<C 部長> (数時間後) シリコンバレーではそんな動きが出ているのか…。それを日本でいち早くやれば面白いな。うん、これは面白いビジネスになるかもな…。すごく新しい考え方だな。早速、事業計画書を作ろう!
<B 常務> ・・・確かに新しいビジネスだな。しかし、数字が楽観的にも見えるが、大丈夫か?
<C 部長> うまくいけばこれくらいは簡単に行けるはずです。調査会社の市場予測データも使っていますし。ぜひやらせてください!
(2 か月後)
<D 事業部長> 我々の事業部も協力しなければならないのか…。しかし、人は増やせない。その中でこれをやるのは、現実的じゃないぞ。
<E 営業部長> こんなサービスに誰が金を払うんだ…?
<C部長> まずは価格を安くしても普及させるのが我々の戦略です。先に「この分野といえば我々」というイメージがついてしまえば、こっちのものです。ぜひお願いします!
<F 財務部長> この売上成長のペースだと、単黒になるのが 2030 年ぐらいですかねぇ。固定費が重すぎます。投資回収?さぁ、22世紀とか?
<A 社長> この事業は一体どうなってるんだ!?計画と全然違うじゃないか。あと半年で見込みがつかなければすぐに撤退だ!
<プロジェクトメンバー> こんなに新しい、良いコンセプトがなぜ理解できないのか、不思議だな。事業部や営業がもっと協力的だったらもっと普及していたのに…。うちは部門間の風通しが悪すぎる…。それに、客のレベルが低すぎるんだよ…。
(続く)
宮田 丈裕 (当社代表)
次回のシリーズ第2回は:
※この記事は、引用・リンクは自由にしていただけます。
ただし、当社の会社名、記事の著者名を引用していただくことと、
どのようなサイトなどのメディアで取り上げるかを
当サイトの「お問い合わせ」から当記事タイトルと共にご一報いただくことを
条件とさせていただいております。