私は今、このような記事を集中的に書いている。ここでは、番外編として、私がそうしている背景や意図を書きたいと思う。
まず、アセスメントに携わってきた中で、私は本当に色々なことを学ばせていただいた。最初の数年はアセッサーとしての技術習得に必死で、その後、インタビューが面白くなって大量にインタビューの仕事をしていた。
インタビューが面白くなったのは、極めて優れたリーダーや経営者の方々から素晴らしい話を聞けたというのが理由の一つである。私個人としてとても大きな学びになったし、彼ら彼女らの「真似をしよう」と始めたことは数多く、その中でも今でも続けていることも多い。彼ら彼女らはそんなつもりはなかったはずだが、私の偉大な先生達であり、私はとても感謝している。
この時期に何百人、何千人にインタビューをしているので、様々なエピソードを思い出すが、手短に書けることとなると限られているので少しだけ。
ある方はインタビューを受けるために札幌から東京に来てくれた。銘菓のお土産まで持って来てくださったことには驚いたが、それ以上に感心したのは、「これ、よかったら食べてください。美味しいんですよ。」と言って箱を開け、まず自分が1つ開けて食べていた。これがなければ遠慮していたと思う。昔ながらの対人対応かもしれないが、非常に上手だなと思った。単純なことに見えて、簡単にできることではない。実際、北海道の地場の人脈を広く深くお持ちだった。(ただし、アセスメント上の評価がお土産によって変わることはない。いや、ほとんどない。笑)
また別の会社でのインタビューは、かなり違う意味で忘れられない。その会社が別の同業会社を買収し、買われた会社のシニアマネジャー全員をインタビューしたのである。買収直後で、買収後統合(いわゆる "Post-Merger Integration" (PMI))の一環として行われた。そのインタビュイー(インタビューされた人)のうち結構多くが、少なくとも最初は、手が震えていた。3~4mは離れていたと思うが、はっきり分かるほどだった。買収され、不要人員の首が切られると思っていたのだろう。「この時間次第で自分の行く末が決まる」と。そんな噂も立っていたのかもしれない。たぶん、実際には解雇はなかったと思うが、あまりにも印象的だった。
また、ちょうどその頃に『トレーラーハウスから巨大企業の社長になった、幸運な私』(ディビット・ノバック、ジョン・ボズウェル著、2008年、インデックス出版)という本の翻訳をした。著者の一人、David C Novak氏は世界の中でも最も優秀なCEOの一人だと私は思うが(私だけでなく、ウォーレン・バフェット氏もそう考えていたそうだ)、この本は彼の自叙伝である。(この本のリンクを貼っておこうと思ったが、既に絶版になっており、中古品はあるかもしれないが、リンク切れを起こすといけないので、Novak氏の英語版のウィキペディアを貼っておく。)
私は他にも自著・共著の書籍を何冊か書いたことがあるが、書籍を一冊書くのは本当に大変である。しかし、この『トレーラーハウス~』はあっという間だった。翻訳という違いはあるにせよ、日本語の文章を一冊分書くということにおいては変わらないのだが、内容が面白くて書くことそのものが非常に楽しかった。ちなみに、最初に取り掛かった時は、「まずは読みながら、ざっくり訳していこう」と考えて始めたのだが、内容が面白くて読むだけになってしまった。私は翻訳のプロではないので、そういう意味では苦労したが、あまりにも楽しい仕事だったし、あまりにも学びが大きかった。残念ながら直接お話することはできなかったが、2日間ぐらいぶっ通して、リーダーとしての超ハイパフォーマーにインタビューしたような感覚があった。
そうしたことを通じて、私なりのリーダーシップ論ができていった。「経営視点」についても様々な洞察を得た。これを書いている時点ではリーダーシップ論はまだそんなに書いていないが、これから書こうと思っている。
その後、その次の”時代”では、私は人材育成について、そもそも論を問うようになっていった。なぜ方法論として研修に偏りがちなのか。研修は本当に成長の役に立つのだろうか。なぜ上司や人事が社員を”思い通りに”育てようとするのか、など。私は本を読むこと自体はあまり好きではなく、目的や必要性もないのにむやみに本を読むようなことはしないのだが(本を読むことそのものを美徳とする社会通念があまりにも強いので、それに疑問を呈している、ということもある)、この時期は私にしてはたくさん読んだ。特にモーガン・マッコール氏からは多大な影響を受けた。
そうしたことを通じて、私なりの人材育成論ができていった。その領域の記事は少しずつ書いている。
その次の”時代”では、イノベーションに行く。そもそも、そうしたリーダーシップ論、経営論、人材育成論が前提にしている世界とは真逆のところに「イノベーションの世界」とでも言うべきものがあるのではないか?
また、同時に、私が私自身を解放していった時期だった。私は幼少期から、人と同じことをするのがとても嫌だった。それを取り戻していった時期と言った方がいいのかもしれない。
したがって、ここで私が書いている記事は、だいたいがこの3領域のどれかだ。リーダーシップ論か、人材育成論か、イノベーション論の3領域だ。この各領域はおそらく、少なくとも1冊ずつの本が書けるような分量になると思う。
しかしながら、書籍を書くつもりは、今のところない。実際、人材育成論の”時代”に編集者の方(『トレーラーハウス~』の編集者の方とは別の方)と検討はしたのだが、残念ながら書籍も全般的に廃れつつある。英語圏の市場ではそこまでではないと思うが(私はそれ以外の言語圏の状況に明るくない)、日本語圏での書籍出版は、内容がとても薄くなってしまっていて、読者側も多くを期待していないと感じている。もちろん、そうでない、質の高い書籍も少なからずあるが、全体的な傾向としては、の話である。
それで、当社HPを新しくするタイミングができたので、そこに記事として書こうと思い立った。顧客企業に訪れると、こういう話はよくさせていただく。そういう時には、社交辞令かもしれないということは差し引いても、面白がっていただくことが多い。しかし、そういう時は断片的にしか話ができないので、1ヶ所に集めておいて、読みたいと思ってくださる方に読んでいただきたいと思った次第なのである。
実は、これを当社の仕事に繋げようとは、あまり思っていない。結果的にそうなるのは歓迎したいが、人材関連業界の中ではおそらくあまりにも異端な考え方を私は持っており、しかも業界の主流の考え方は間違っているもの、効果的でないものも多く存在すると考えている。多くのケースで、「従来からある暗黙の前提に対して、何も疑わずに追従」しているだけなのだと思う。もちろん、全ての人たちがそうではないし、過去や未来もずっとそうだ(った)とは思わないが。
だから、むしろ、「そもそも論で考えてみれば、確かにその通りだ」と賛同してくださる方々と仕事をご一緒したいと考えている。
ちなみに、世の中の趨勢として、「ブログに記事を書く」ことはもう廃れ気味である。どちらかと言えば、動画を撮ってYouTubeに上げていく方が主流なのかもしれないが、別に流行りすたりはどうでもいい。内容的に、読んでくださる方の中心層は、人事関係者、人材業界関係者、事業や会社を経営する方々、それから就活中・転職活動中の方々だと思う。そうすると、動画よりも文字コンテンツの方が「仕事をしているかのように」読めるだろう、ということも当然ある。
それと同時に、私が人生の中で、インタビューやコンサルティングを通して得たもの、学んだことを振り返り、自分一人の中の対話を吐き出したいので、それには「喋ること」よりも「書くこと」の方が、読む方々が入り込みやすい、没頭しやすいだろう、ということもある。
宮田 丈裕 (当社代表)
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