スキップしてメイン コンテンツに移動

我事化とは何か?(ドリルの受検対策①)


「イノベーション人材」にとって、我事化は最重要の能力項目の一つだと言っていい。我事化とは、何らかの事柄を自分のこととして捉えて能動的な行動に繋げることである。「当事者意識」と言い換えてもいい。我事化の逆は「他人事」にすることであり、建設的でない評論や愚痴はこの典型例と言える。





対談の中で古森剛氏も語っているが、架空の質問に対する答えとして「私ならこうする」というような言い方をする人は我事化の力が高いことが多い。我事化が弱い人の典型像は、誰かが出した答えに対する論評はやたらと立派で賢く見えることがあるかもしれないが、自分がやるとなると言い訳をつけたがったり、保険をかけたがったりして、返って来た結果に対しては自分の責任をあまり感じずに、むしろ他人のせいにしたりもする。

もちろん、我事化の力が高い人でも、我事化しない事柄もある。だからこそ、イノベーション人材の最も基本的な能力として我事化と知的好奇心がセットなのだが、ただ、我事化のスイッチを入れようと決めたことに関して我事化できるかどうかは大きな差がある。ある意味「やる気スイッチ」と呼んでもいいかもしれないし、「コミットメント」にもかなり共通した側面があると思う。

既にご想像されているかもしれないが、我事化が大事なのは、イノベーション人材に限らない。我事化は社会人の基本と言ってもいいと私は思う。社会人だけではないだろう。例えば、高校や大学の受験生が、受験勉強を他人事や”やらされ感”でやっていたら、その効果は限られてしまう。人生を前向きに生きるための能力と言っても過言ではないかもしれない。

ところが、これをやれる人というのは意外に少ない。大きな会社に勤めていると、自分の会社が「自分の会社だ」と思う意識は弱くなるのも自然かもしれないが、会社全体をより良くするための課題を他人事と捉えてしまう人は極めて多い。インターネット社会、特に掲示板文化に見られる誹謗中傷においては、全てが他人事であるかのような人もいる。つまり、我事化は社会にとっても無意味なことではない。

「責任感」も我事化に近い概念だが、責任感はどちらかと言えば、役割とセットになっていることが多い。「自分の役割範囲はここ。だからこの件は自分がやるべきこと。」というロジックが背景や無意識にあるように見えることが多い。それに対して我事化は、役割とはあまり関係がない。「あなたが日本の首相だったら、この件についてはどう考えるか?」と言った時に、自分のエネルギーをそこに投入しようと決め、投入するのが我事化である。いや、あなたがもし日本の首相でなければ、の話だが。

我事化は、多かれ少なかれ、想像力とセットとも言えるだろう。首相の決断は、他の人が知り得ない情報が基になっているかもしれない。(だからと言って、実際の首相の決断が全て正しいとは絶対に言えないが。)その背景にはどのような事情や制約があるのか。もしそういうものがあるなら、自分ならどう考えて決断するか。

ちなみに、責任感が強すぎるのも問題を引き起こす。メンタル的に疲れてしまって仕事や日常生活に支障をきたしてしまうケースも多い。数々の粉飾決算などの不正事件や、官僚が過去に繰り返し起こした事件も(それだけが原因ではないと思うが)それが遠因になっているかもしれない。


当社ソリューション、「ドリル・アセスメント」でも、我事化を測定することは多いが、もし採用ドリル・アセスメントを受検される方がこれをご覧になっていたら、対策として、何よりもまず我事化を強化することをお勧めしたい。あらゆるニュース記事を見た時に、上記のような自問自答をして、間違っていても全然構わないので、自分なりの結論をはっきりと出すことである。

そして、できるだけ、「自分が想定していなかったことが起きる」としたら、どのようなことが起きて、その際にはどうするか…などというように、枝分かれさせたシナリオをできるだけ作って思考を巡らせることである。このトレーニングは、我事化の対策になるだけでなく、他の様々な能力の向上にも繋がりやすい。つまり、逆に言えば、それだけ我事化は他の能力のベースになっているものである。

他の能力とは、先ほど挙げた想像力も含むし、それと似ている創造力も含む。他にも影響力や成長力とも全般的には比例関係があると考えられる。


そしてまた、このようなトレーニングは、就活生がよくやっていらっしゃる知能試験や学力テストの類いのテクニカルな対策よりもよっぽど本質的で、後々のご自身のためになると思う。


宮田 丈裕 (当社代表)




※この記事は、引用・リンクは自由にしていただけます。
ただし、当社の会社名、記事の著者名を引用していただくことと、
どのようなサイトなどのメディアで取り上げるかを
当サイトの「お問い合わせ」から当記事タイトルと共にご一報いただくことを
条件とさせていただいております。


このブログの人気の投稿

イノベーション人材の2タイプ:「構想人材」と「実行人材」

イノベーション人材のタイプには、大きく分けると2種類がある。 イノベーション構想人材 イノベーション実行人材 これらは、当社が音頭を取って開催したイノベーション研究会「FURICO」が出した結論の1つである。 「イノベーション人材」という言葉は今でこそよく聞かれるようになったが、多くの場合、構想人材を指しているように見える。つまり、何らかの革新的な事業や商品の開発を発想し、計画するような人である。これについては、別の記事で、もう少し細分化して説明したいと思う。 (『 イノベーション創出の最重要人物:「イノベーション・プロデューサー」 』 『 経営の中でも最高難度:「イノベーション事業家」 』) イノベーションの創出において、実行人材も同様に重要である。構想人材が自分の構想を、自ら実行することはよくある。しかし、それだけだと難しいというケースは極めて多い。したがって、実行人材を巻き込むことが肝となるケースが多い。 イノベーション実行人材とは、単純化して言えば、構想人材が考えた構想に対して、「それ、面白いかもしれない!」と思い、その実現のために自分でも工夫をしながら前進させていく人である。 そのためには「我事化」や「知的好奇心」が大変重要である。こうしたものを持っていて、それによって自分を”点火”できれば、その他の能力は「あればあるほどいい」という位置付けである。こうしたイノベーション実行人材は意外に多くない。構想人材も極めて少ないが、実行人材も少ないのが現状のように見受けられる。 当社の推計だが、イノベーション構想人材は日本の全労働人口の0.05~0.1%程度、実行人材は1~5%程度しかいない。その他はどういう人か。与えられた仕事を真面目にこなし、自分の”個人的”で”勝手な”好奇心から動いたりせず、我慢強く正確に仕事をやり続ける人たちがその中心である。この人たちは「効率的作業組織」においては大事だが、「イノベーション創出組織」においての優先順位は下がる。 つまり、日本は全体的に言えば、「効率的作業組織」でハイパフォーマンスを発揮する人たちを育ててきた。今もそれは変わらない。それが悪いわけでもないが、それは「イノベーション創出組織」でのハイパフォーマーの姿とはかなり違い、そういう人たちを育ててきていない。もっと正確に言えば、そういう人たちが育つ環境を用意していないケース...

ビジネス着眼とは伸ばせる能力なのか?(ドリル受検対策⑥)

 結論から先に言えば、「ビジネス着眼」という能力項目も、十分に訓練可能なものである。決して先天的なものでもなく、伸ばせない能力でもなく、ビジネスの経験がなくても伸ばせるものである。 とはいえ、もちろん、ほぼ先天的にビジネス感覚の鋭い人はいるし、逆に、ビジネスに興味のない人だっている。なので、程度の差はあるが、それを伸ばしたいと思って効果のある方法を採っていれば訓練して伸ばすことはできる。 この「ビジネス着眼」という能力は、ノウハウやスキルとは別の次元のものである。近年はビジネス的なノウハウを提供している動画や文章が非常に増えている。集客方法、マーケティング方法、売上を伸ばす方法などといった、小規模ビジネス向けのノウハウから、効率的な仕事の進め方、コミュニケーション方法など、もっと一般的なノウハウや専門分野のノウハウまで、あらゆるノウハウに溢れている。 そういうもののうち、あなたが興味をもったノウハウを学ぶことを止めはしないが、それだけでは「ビジネス着眼」は伸びない。その学びをあなた自身の仕事の実践にどう活かすか、どこをどう変えるか、どこがうまくいってどこがうまくいかないか、うまくいかないところをどう解決するか…こうしたことを考えることで「ビジネス着眼」が伸びる可能性が出てくる。 つまり、ビジネス・ノウハウは、あたかもそれが唯一の正解であるかのように提示されることが多いが、それは必ずしも真実ではない。唯一の正解などこの世には存在せず、一瞬存在したとしても常に変化する。実際、たった5年前に提供されていたwebマーケティングのノウハウは、今でも全て有効かと言うと、そうではない。 むしろ、「唯一の正解などこの世には存在せず、一瞬存在したとしても常に変化する」ということを前提としないと、「ビジネス着眼」の能力は伸びないだろう。そこが出発点である。ちなみに、ビジネス・ノウハウがメディアに溢れていることは、ビジネス着眼、ビジネス感覚、ビジネス視点を作る上で邪魔になると私は考えている。なぜなら、独立・起業しようという人が、当たり前のように”正解”を求め、それに忠実にやることがビジネス上の成功の秘訣であると大いなる勘違いをするからだ。それはその人の成功の秘訣ではなく、ノウハウ提供者の成功の秘訣でしかない。(だからこそ、あたかもそれが唯一の正解だと思わせるような表現をしているケ...

社員の顧客視点の劣化は会社にとって命取り

これを書いている今のつい数時間前の話だが、日本の某新聞社が、自社の電子版の広告キャンペーンをやっているのを目にした。そこでは、その新聞電子版のサブスクリプションを止めると「ビジネス実践力がつかない。つけるためには継続が大事。」というような内容を訴求していた。 私は甚だ疑問なのだが、これは何か証拠でもあるのだろうか。継続した人のグループと継続しなかった人のグループで、その人たちのビフォーとアフターとの差に有意な差があったとでも言うのだろうか。百歩譲って差があったというなら、本当にどんな職種においてもその差があると言えるものなのだろうか。 私がこう反論するのは、確信に近いものがあるからだ。まず関係ない。論理的に考えれば関係あるはずがない。「ビジネス実践力」をどう定義するかにもよるが、わざわざ「実践力」を切り取っているのだから、思考面は含めないと考える方が自然である。そうだとすると、人を動かしたり心を動かしたりする感受性を含めたコミュニケーション面や、他者と信頼関係を構築するところや、信頼関係を構築する過程でのパーソナリティの面、あるいは専門的なテクニカルスキルの面が主に関連してくる。新聞の電子版を読み続けると、コミュニケーション能力やパーソナリティやテクニカルスキルなどが上がるのだろうか。そうだとしたらその合理的な理由は一体何なのか。 二百歩譲って、「ビジネス実践力」には思考面やその前提知識も含まれているとしよう。そうだとすると、例えば私が関わらせていただくことの多い「経営視点」を養成するのに新聞を使うことはできる。簡単に言えば、「自分がその記事の当事者の立場だったとしたら、何を感じ、何を考え、どう解決しようとするか」を想像し、できるだけ多くの状況設定や選択肢を想定することで擬似経験の幅や当事者意識の強さを広げたり高めたりすることができるからだ。しかし、「新聞(の電子版)を読んでさえいれば自動的にビジネス実践力(なるもの)が伸びる」わけではない。そういう意図を持って読む必要があるからだ。 いや、広告では「自動的に伸びる」とは言っていない。私がわざわざこんな文章を書いてまでこの広告を問題視しなければならないと考えたのはそこに関係している。「サブスクリプションを止めると伸びなくなる」というような表現をすることで、少し大げさに言えば「脅し」ているわりに「自動的に伸びる」ことは...