イノベーション人材とは、何かしら狭い範囲の特徴を持つ、限定的な、似たり寄ったりの人達のことを指しているのではない。
当社がよく使用している当社の能力要素9項目は、共通して持っていることが多い、というだけのもので、高ければ高いほどいいけれども、それがないと始まらないという類いのものではない。イノベーション人材は独自性が強いことが多く、つまり多様である。
多様性がイノベーションを生むという考え方があるが、私の考えでは、それももちろんあるが、多様性を許容、あるいは尊重するような組織は独自性の強い社員が育つ環境を持っているということであり、そうした個人がイノベーションを生む、というメカニズムもあると考えている。
そうした独自性の強い”個”が育つ組織はどのような組織か?
面白いことに、1つの会社の中でも、イノベーション人材が育つ組織と育たない組織が両方あったりもする。あなたの会社はどうだろうか。感覚的に理解できる方も少なくないのではないだろうか。
イノベーション人材が育ちやすい”場所”は様々だが、共通して言えるのは、一言で言えば「辺境」である。辺境という言葉は、中央から遠く離れた地域や国境付近のことを意味する。中央というのは、「本社」や「本社機能の間接部門」という意味もあるかもしれないが、それよりも、1つの会社が複数の事業を持っている時、どうしてもメインストリームとそうでない事業があるものである。そのメインストリームが中央であり、そうでない事業が辺境である。
インフォーマルな言い方の方がぴったり合うのだが、大きな会社になればなるほど、「偉い」とされている部門があるものである。誰も明文化はしていないが、組織の序列のようなものである。往々にして出世コースとも関係が深い。このような、偉くてぴかぴかの部門が中央であり、序列の下の方が辺境である。
また、こういう言い方もできる。会社(またはグループ)全体の売上や利益のうち、大きな比率を稼いでいる本流事業のような事業と、そうではない脇役的な事業がよくある。前者が中央で、後者が辺境と言ってもいい。
こうした辺境の方がイノベーション人材は育ちやすい。もちろん、辺境部署なら必ずイノベーション人材になるわけではないが、イノベーション人材と言える人々を一人ひとりつぶさに見ていくと、そういうところの経験が大きな原点となっている人が非常に多い。
逆に言えば、暗に「偉い」とされているような組織や、本流事業を担っている部門では、イノベーション人材はやや育ちにくい。育つことももちろんあるが、大抵のケースでは、その中の”辺境”だったりする。
これは合理的な説明がつく。偉い組織、本流事業部門は、対外的にも「強み」とされていたり、その会社のコアコンピタンスだったりすることが多い。歴史があることも多い。経営資源がふんだんに投入される。強みがあって、人もたくさんいるし金もある。そうすると、多くの場合は細かく分業化されていて、既定路線の延長線上の発展を目指すような戦略が描かれることが多い。
これに対して、”辺境”では、明確な強みも少なく、投入される経営資源も限られていることが多い。その中でその事業を支えていこうとすると、シンプルに言えば、従来にない角度から差別化を図り、それに伴う諸々の手続きや作業を全部自分で、あるいは(少人数の)自分達でやらなければならない。
明らかに効率的なのは前者だ。それは利益効率という意味でも、時間効率という意味でも。しかし、イノベーション人材が育ちやすいのは後者だ。あらゆることを個人や小チームで考えて、実行もして、結果がダイレクトに返って来る。下手をすると、中長期的には組織の存続にかかわるが、自由度もある。ハイパフォーマーの多くの共通項である”修羅場”の経験機会も多い。(別記事『ハイパフォーマーの重大な共通項:「修羅場」』)
ここ5~10年ぐらい、公表している中期経営計画に「イノベーション」を上位に掲げている企業が多いが、失敗パターンに陥りやすいケースの1つは、本流事業の偉い組織で育ったエリートのエースをプロジェクトの中心に据えることにあると思われる。
それはまた別の機会に書こうと思う。(『イノベーションの試みのうち8割がこの「失敗パターン」にはまる~①』)
宮田 丈裕 (当社代表)
※この記事は、引用・リンクは自由にしていただけます。
ただし、当社の会社名、記事の著者名を引用していただくことと、
どのようなサイトなどのメディアで取り上げるかを
当サイトの「お問い合わせ」から当記事タイトルと共にご一報いただくことを
条件とさせていただいております。