ここでは、「教えない」という名リーダーの特長について書きたいと思う。これは『名リーダーの条件① ~ 普通でないことをやろうとする才能』でこのように触れたが、
次に、「あまり教えない」ということ。教え魔に名コーチはいない。ほとんどのケースで。これを書き始めると長くなるので、これはこれで別に書きたいと思う。
それがこの記事である。教えないことというのは人の成長の促進…つまり教育には大変重要なことである。
「いやいや、義務教育では、先生は『教えること』しかしてないじゃないか?」という反論があるかもしれない。おっしゃる通り。だから義務教育が問題だらけなのだ。
「いやいや、教えることが身になることもある。『教えない』となると、その機会も奪うことになるじゃないか?」という次の反論があるかもしれない。その通りで、では、どのようなタイミングが「身になる」タイミングか、ということが問題なのである。そのタイミングを全く見ずに教えようとするのが私の言う「教え魔」である。教え魔はこんな風に考える。説明・解説がわかりやすいことが良い教え方だと。これは完全なるプロダクトアウトである。
そのタイミングを見極めずに人に教えた経験は誰にでもあると思う。その結果は「教えたところで何も変わらなかった」ということが多いと思う。私が見てきた限りではあるが、教えているシーンの、少なく見積もっても半分以上はタイミングを見極めていないように見える。
タイミングとはどういう時なのか。『「人を育てようとすること」の大きな落とし穴』にこんなことを書いた。
「あなた自身が成長してきた過程を思い起こしてください。あなたは『上司が思った通りに成長しよう』と思って成長しましたか?違うはずです。あなた自身が『こういう能力が自分には必要だ』と思ったから努力してそれを成し遂げたはずです。どう成長したいかを決めるのは本人でしかありません。『上司の意図通りに育てられる』という暗黙の前提が全くの間違いなんです。」
タイミングとは、「本人が必要性を感じている時」である。できれば「痛感している時」である。何回やってもうまくいかない時。どうやってもうまくいかない時。やり方は間違っていないはずなのに結果がついてこない時。どうしたらいいのかわからなくなってしまった時。
こういう状態になるのは、「良くない結果が出てすぐ」ではない。「何回やってもうまくいかない」とか、「やり方は間違っていないはず」、「どうしたらいいのかわからなくなる」ぐらい試行錯誤を繰り返している時である。
そういう時に、すっと手を差し伸べる。そこで学ぶことというのは、スポンジのように吸収されることが大半である。
この試行錯誤が大事なのは、「自分で考えて実行し、その結果が自分自身に返ってくる」という状態を基本にすべきだからである。すぐに教えようとすることで、仮にすぐ本人がその通り実行しようとしても、自分で考えなくなる。実行して結果が伴っても「自分自身の結果」だとは思えない。達成感もなければ悔しさも自信になることもない。
相手に考えさせる前に教えようとしてしまうこと。わかりやすく、淀みなく、綺麗に説明できると満足感に溢れた表情を浮かべる”教育者”。そういう方を何人も見てきたが、申し訳ないのだが、その行動は教育者として大失格である。それは相手のためではなく、自分のためだからである。
ただし、遅すぎると、諦めが入ってくる。こうなると完全に自信や興味を失ってしまうので、介入するのはそれより前である。
『名リーダーの条件① ~ 普通でないことをやろうとする才能』に書いたことだが、名将や名コーチ、名リーダーは、そんなに頻繁には教えようとせず、プレーヤーをじっくり見ている。それは、おそらくタイミングを見ている、ということもあるはずである。
それから、「わかりやすく、淀みなく、綺麗に」教えることにある勘違いは、「自分で掴みとったんだ、自分で解決したんだ」という実感を奪うという点でもある。名コーチの多くは、ヒントしか教えない。何も教えずに「それなら誰々に聞いてみたら?」とだけ言う人もいた。
人は壁にぶつかった時、自分で考え、自分で解決すべきなのである。その解決をリーダーがしてあげるのは甘やかしに他ならない。たとえリーダーが考えて解決してあげたとしても、それを見せるべきではない。お膳立てして本人が掴み取ったように見せてあげるべきである。もしそれを見せている人がいたら(そういう人は山ほどいるが)、それも相手のためでなく、自分のためにやっていることである。
名リーダーは、多くのケースで、厳しい人であり、しかも愛情があり、その下で人がよく育つ。それはなぜかと言えば、決して教え魔になっていないし、自分のアピールではなく、真に相手の成長のためのことをしてあげるからである。
宮田 丈裕 (当社代表)
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