受検対策シリーズとして今までに3本書き、ある程度気が済んでいたが、9個中3個しか書かないのもどうかと思い、4本目を書こうと思う。今回は「人間的影響」である。
人間的影響は、「イノベーション人材に求められる人間力」にカテゴライズされる能力要素である。人間的影響とは、「人間としての魅力を出して他者を感化させる」ことである。
わかりやすく言うとリーダーシップでもある。でもあるが、リーダーシップだけではない。人望(これはリーダーシップに近い部分があるが)とか、いわゆる”愛されキャラ”のようなものも人間的影響の一部だろう。(別記事『測定しにくいイノベーション能力、「人望/愛されキャラ」』参照)
人はリーダーシップを取る時、大きく分ければ2つの力を使うと言える。1つはポジションパワーであり、1つは人間としての魅力である。ポジションパワーとは、役職によって与えられた権力やその他の力を指している。例えば、肩書が付いていることで「その人の言う通りにしよう」と思わせる力である。社長とか部長とか課長とか、CEOとか理事長とか書記長とかチェアマン(ウーマン)とか。あるいは過去の実績や、知られている組織や人の威を借ることとか。
ちなみに、ポジションパワーを使うのは当たり前と言えば当たり前だが、それだけの人というのがいる。芸術分野でさえこれが横行している。例えば、ミュージシャンの紹介をよく聞いてみると、音楽そのものの紹介とは全く無関係で、ポジションパワーを使いたいだけのことが非常に多い。元何とかというバンドでブレイク、何々という曲がチャートNo1ヒット、誰々も絶賛・共演、とか。音楽そのものは実質的に、完全に過去の他人のヒット曲の焼き直しだったりすることも多い。呆れ果てる。
それだけでない力によって人に影響を与える、自発的に行動を起こしてもらうのがこの「人間的影響」である。
イノベーション人材が他者に感化させることや影響を及ぼすことが必要なことは比較的わかりやすいが、なぜ「人間としての魅力を出」すことが含まれるのか?
他の記事でも書いているので繰り返しで恐縮だが、イノベーションというものは「結果論で」イノベーションと呼ばれるのであり、それが産み出されるプロセスにおいては、いたとしてもごく僅かな人数だけがそれをイノベーションだと思っている状態である。そんな状況の中で、協力者を集めたり、初期の顧客の支持を得る時にはポジションパワーに効き目があまりないことが多い。
ポジションパワーとは、紛れもなく幻影、幻覚、幻想である。実体はどこにもない。株式会社の代表権は法務局に行けば登記簿謄本によって証明できるじゃないかと反論されるかもしれないが、そんなものは紙の上に書かれた法律によって定められた、紙の上に書かれた文字でしかない。重要なのは、「みんながそのポジションを凄いと認めている」という認識を、多くの人が持っていることである。それはつまり幻想である。紙幣と一緒である。
この世には実体なんてない、などという哲学上の議論は置いておいて、実体により近いのが人間的魅力と言えるかもしれない。つまり、「なんだこれ?海の物とも山の物とも分からないものに加担するつもりはないが、でも、あんたが協力してくれというなら喜んで協力する」というような反応を起こさせるものである。
上記の別記事では、人望や愛されキャラなどといった特性が「マーケットイン的な傾聴力」によってもたらされるということを述べた。人間的影響において傾聴がなぜいいかと言うと、「私はあなたに注目していますよ。あなたの考えにとても興味がありますよ。」ということを言外に伝える行動だからだ。それを言葉で言っていても、行動がなければ人は感化されにくくなるのは当然である。
傾聴だけではない。本質的には「利他」であり「愛情」であり「無私」である。ただし、それは「自己犠牲」や「甘やかし」とは異なるが、それはいつか書こうと思う。
そういうことなので、実は受検対策が極めて難しい能力要素である。新卒採用で使用した設問に、ある企業の部長が回答したことがあったが、見事な高得点だった。それだけ、人間的影響を使う経験を積んでいると評価が高まりやすい。
しかし、誰にでも必ず人間的魅力はある。心の持ちようだけで、それが大きく開花する。経験がない、少ないからと言って、できないわけではない。実際、その部長よりも高評価だった学生が、少数ではあるがいたわけだから。
したがって、受検対策としては、3つの方法を挙げたい。1つは実際の人間関係で「利他」を実践してみることだ。真に誰かを喜ばせようとして、それ以外のことを考えないことを練習してみていただきたい。持続できればできるほど向上するはずだ。
2つめに、あなたが「あの人は人間的影響が強いなぁ」と思う人に話を聞いたり、観察したりすることだ。あなたが真似できることを探してほしい。その後に1つめをやって、続けると自分らしい人間的影響ができるようになるかもしれない。
3つめは、実際の人間関係でなくてもできる。影響力を使う場面を想像し、そこであなたがどんな行動を見せ、どんな言葉を投げかけるかを、想像しながら、考えながら書いてみるといいだろう。喋るように書くといい。さらに、それを誰かに聞き手の立場になって見てもらい、心まで動かせたら、あなたの人間的影響は素晴らしい。
ドリル・アセスメントの設問はどれも短期的な対策が難しいのだが、長期的にはなるが、こうした対策も可能である。…で、「対策」とは言っているが、それにとどまらず、あなたの人間的な魅力を見せる能力を伸ばし、将来(イノベーションではなくても)リーダーシップをとるような時に役立つはずである。
これに続く5本目を書くかどうかは、50-50である。もしこれで終わりにしてしまったら、これまでの4本の受検対策方法を参考に、他の要素にも応用してみていただきたい。
宮田 丈裕 (当社代表)
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