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あなた自身と部下の成長のために② ~STARを使った振り返り


成長のためには「振り返り」が必要であることを『あなた自身の成長のために① ~成長できる人の2つの条件』で書いた。

『デイヴィッド・コルブ氏の経験学習モデル("Experiential Learning Theory")というものがあるが、それに当てはめると分かりやすい。経験学習モデルを簡単に紹介すると、人は経験を通して成長することができる。それには4つのプロセスを経ていることが必要で、それは具体的な経験、省察、概念化、実践的試行であり、それは循環する。つまり、何かを経験して、それを振り返り、「こういう時にはこうするといいんだな」とか「こうした方がうまくいくんだな」などと理解し、それを別の機会で試し、そしてまた新たな経験に戻る。

このうち、うまくいかない経験の後、それを省察することによって生まれるのが成長意欲である。つまり本人が行動変容の必要性を感じている状態である。特に人は忙しくなると、省察は抜け落ちる。実践的試行も少なくなる。そうすると経験と概念化だけになるので、要するに仕事も忙しい中で、勉強したり新たな知識を得ているような状況だが、この2つが結び付かないようなケースである。そうすると人は成長しない。』

ここでは、その振り返りをどうやってするかについて書きたいと思う。というのも、振り返りは難しい。振り返りはある程度客観的である必要があるが、人間は誰でも主観から逃れられないからだ。

そこで助けになるかもしれないのが"STAR"という概念である。これ自体は非常にシンプルである。







STARというのはS, T, A, Rという頭文字を取ったもので、それぞれは以下のような意味がある。

  • Situation:状況…あなたがある一時点で置かれた状況。あなたを取り巻く環境。
  • Task:タスク…その時点であなたがやるべきだった事柄。ミッション、役割、責任範囲。
  • Action:言動…その時、あなたが取った行動、言動。
  • Result:その結果どうなったか。

1つ単純な例を挙げてみよう。営業担当者の方がSTARで省察をするとしよう。Situationは、例えば、

「担当する顧客企業があったが、前任者の時にトラブルがあり、先方から信用されていなかった。」

Task。
「自分が担当することになり、以前は大きな顧客だっただけに、そちらのキーパーソンの方になんとか信用を回復できないかと考えた。」

Action。
「まずは顔を覚えてもらうために頻繁に、足しげく通った。」

Result。
「しばらくすると、宿題をもらった。「こいつを試してやろう」と思ってくださったのだと思う。」

私がインタビュー・アセスメントでよく聴くような内容の一例である。インタビュー・アセスメントでは、このようなSTARのセットを1時間で5~8セットぐらい聞き出す。勘の良いインタビュイーなら、喋っているうちに自分の行動特性、あるいはパターンに気付く。

言うまでもなく、重要なのはActionである。直近の自分の経験が整理できない時には、自分の言動を状況や結果と切り分けることだけでも意味がある。

また、大事なのは、自分の行動パターンを答えないようにすることだ。あくまでも一時点の言動を答えること。パターン認識は主観に近い場合が多い。

Resultについては、「受注を獲得した」とか「プロジェクトを完遂した」とか、最終的な、ある程度大きな単位の成果や、定量的な結果しか結果として語ってはいけないと思い込む人もいるが、そうではない。上の例のように、小さな結果でもいいし、定性的でもいい。重要なのは、自分が狙った成果かそれ以上の望ましいものだったのか、そうではなかったのか、である。

望ましい結果でなかったなら、それはなぜだったのか。その答えは自分のActionにあるのかもしれないし、状況やタスクの変化などかもしれない。あまり自分を責めすぎないことも大事だ。次に似たようなことがあったら、ここでの学びを活かしてもっと良い成果を望める。という風に考えていただきたい。

たまに、過去のSTARを聞こうとしても、全く思い出せない人もいる。こうした時に多いのは、自分の言動にあまり意図を持っていないケースである。何も考えずに脊髄反射的に動いているだけだと、脳の引き出しの中に整理して仕舞っておくことができない。

STAR、あるいは類似の概念は行動心理学ベースのアセスメントでは広く普及しているものだが、自分自身のために、あるいは部下のために使うと、ある程度主観から解放される。

喋る相手がいれば喋るのでもいいし、1人でやるなら文章で書くといいだろう。上司が部下にSTARに沿って質問してあげるのも効果的である。

上司も、主観を入れないで話を聞いてほしい。相手の目線になり、どう思い、どう感じ、どういう風に考えてどうしたのか。「そこはこうすべきだ」などという押し付けは一旦置いておいて、まずは部下がどういう人なのかを理解するといいだろうと思う。


宮田 丈裕 (当社代表)




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