スキップしてメイン コンテンツに移動

上位概念化とは何か?(ドリル受検対策③)


イノベーション人材に求められる能力には色々ある。しかし「最低限これだけは共通して必要だ」というものは少ない。「我事化」や「知的好奇心」などといったところだと考えられる。しかし、それ以外では、「あればあるほどいい」し、「なければ始まらない」というわけでもない。

イノベーション人材に求められる能力というと、「創造性」「創造力」「クリエイティビティ」といった能力を一番先に思い起こす人が多いようだが、重要であることは間違いないが、唯一絶対の一番重要項目かというと、そうとは限らない。





私達は創造性のような能力を「(イノベーション人材に求められる)知的能力」に分類しているが、その一方で「(イノベーション人材に求められる)人間力」というカテゴリーもある。どちらの方が重要と言うことは難しいが、人間力が必要条件で、知的能力が十分条件のようなものだと考えられる。つまり、人間力は「なくてはならないもの」に近いが、それだけでイノベーションが起こせるわけではなく、その上に知的能力があって初めて実現できる可能性が出てくるわけだが、だからと言って保証されているわけでもない。人材育成やアセスメントに携わる者として、これほど難しいものはない。「難しい」と書いて「おもしろい」と読むのだが。

さて、そうした知的能力の中で重要なものの1つが「上位概念化」である。知財分野ではよく使われる用語でそこから転用したものであるが、意味は多少なりとも違う。上位概念化は知的能力の中でもとても難度が高く、これができる人というのはたくさんいるわけではない。少なくとも日常生活や一般的な職業の通常業務ではなかなか育ちにくい。

それでも重要なのは、特に「イノベーション・プロデューサー」の役割に特にこの能力が求められるからだ。(『イノベーション創出の最重要人物:「イノベーション・プロデューサー」』参照)

上位概念化とは、認識した具体的事象から抽象化し、上位概念を取り出すことである。上位概念とは、本質、構造、真の目的、共通性などのことで、どれも表面に現れて来ない。だから認識しづらいし、疑おうとも思わない。

例えば、テニスというスポーツにおいて、目に見えやすいのは試合結果や、ゲーム中の選手の動き方、表情などといったところだろうか。そうした段階を、一段上位概念化すると、試合中の統計のようなものがそうかもしれない。誰かが集計してくれればわかりやすいが、そうでなければ見えにくい。それによって「感覚的にはこの選手のサーブが良かったなという印象はあるけど、実際にこんなにサーブが決まっていたのか」などと試合を俯瞰することができる。

もう一段上位概念化してみよう。この選手はどの試合でもサーブが強い選手なのか。例えば、そうでもないかもしれない。むしろ、ゲームによって相手の弱点を突く戦術と綿密な準備が特長だとしたら、この選手のスタイル(つまり、プレーの共通性)がわかってくる。

このように本質を追究するような抽象化が上位概念化である。人間はどうしても具体的なことの方が認識・理解しやすく、抽象的なことの方が認識・理解しにくい。上位概念化も抽象的な思考プロセスなので捉えにくい。

もう1つ例を挙げれば、新幹線の車両の開発は有名な話である。流面系で、先が丸みを帯びて突起しているが、あれは1960年代に開通した新幹線の最初の車両の開発時にカワセミのくちばしを真似たそうだ。カワセミは水の中に飛び込んで食料を得るが、その飛び込む瞬間に抵抗を受けにくくなっている。その構造を流用したそうだ。

私が新幹線車両を開発していたとしたら、カワセミから学ぼうとするだろうか。なかなか思い付かないのではないかと思う。しかし、その開発の際にトンネルに入る時の轟音が問題になり、なぜ轟音が起きるかというと、その瞬間の空気抵抗が原因だったという。それと同じことがカワセミでも起きるわけで、水の抵抗を最小限にする方法を流用できれば、トンネルの空気抵抗も減らせるだろう、というロジックだ。

こうした思考法は「アナロジー思考」としても知られているが、その思考プロセスには上位概念化がある。

難度は高いのだが、この能力は物凄い威力を持つ。なぜなら、一見関係のない事柄から自分に関係のある事柄に役立てられる学びを得ることができるからだ。しかしながら、抽象度と難度の高さから、なかなかこの能力の持つ意味はわかりづらい。

それでも、イノベーションはこのような学びを起点として実現されることが往々にしてある。

この能力を伸ばすための方法は、どんなことでも構わないので、見聞きした話から自分に活かせる学びを抽出することである。それも、自分と同業の同じ職種の、自分よりも経験の深い人の話から学びを抽出するのは簡単かもしれないが、それをなるべく“遠く”の人からすることが効果的だ。

遠くから学びを得ることは、得てして、非常識的である。従来の方法にはないことが多い。だからイノベティブになる可能性が高まってくるのである。

また、この能力のベースになるのは「知的好奇心」である。

また、そもそも論の問いを作ることも上位概念化の訓練になる。あまりに当たり前になっているために私達が特に意識することもない、というような暗黙の前提に気付き、それを疑ってみることである。詳しく知らないものの方がいいだろう。あなたが素人として、できれば顧客の立場になって「なんでこうでなきゃいけないの??」という風に思考する。これはまさにイノベーションの種になるし、『イノベーション創出の最重要人物:「イノベーション・プロデューサー」』のやるべき思考なのである。


宮田 丈裕 (当社代表)




※この記事は、引用・リンクは自由にしていただけます。
ただし、当社の会社名、記事の著者名を引用していただくことと、
どのようなサイトなどのメディアで取り上げるかを
当サイトの「お問い合わせ」から当記事タイトルと共にご一報いただくことを
条件とさせていただいております。

このブログの人気の投稿

研修で人は育たない

研修で人が成長するかと言うと、まず無理だ。研修のファシリテーターをやっている私がそういうのもどうかとも思うが、真実だし、あまりにも世の中にそこを公言している人が少ないのであえて言いたい。 もちろん、全ての研修で、全員が成長することがあり得ない、と言っているわけではない。ただ、研修を企画された方々は往々にして、参加者全員が成長することを期待していらっしゃる。まず一旦、全員が研修で成長なんかできないと諦めた方がいいと私は考えている。そこから初めて、「じゃあ少しでも効果を出すためにどうするか?」「成長を促進するために、研修以外に何をしたらいいのか?」という視点が出てくる。 この視点が重要なのは、「研修をやれば社員の成長効果が出るはず」という日本企業(だけではないと思うが)にある伝統的な暗黙の前提が明らかに間違っていることが多いからだ。 その前提がどうやってできたかと言えば、明治時代以降に作られた会社において、あるいは第2次大戦後の日本企業において、海外との情報ギャップが大きく、海外にあって日本にない知を採り入れる場として確立されたと思われる。今、そんなギャップが大きく存在するだろうか。 また、そうした時代の日本では、第1次産業(農業・漁業など)から第2次産業、あるいは第3次産業に移ってきた従業者が多かったわけで、戦後の「集団就職」はその象徴である。その従業者たちの多くは高等教育を受けていなかったこともあり、内容は高等教育とは違うにせよ、知識教育は重要だったと言える。今、研修参加者で、そういう人がどれだけ存在するだろうか。 つまり、単純化して言えば、知に飢えた時代だった。学べる知は途方もないほど存在していて、それが飯を食っていくために必要不可欠な時代だった。そして、学べば学ぶほど、それが直接的な理由ではなかっただろうが、自分ができる仕事が増え、その質が上がり、給料は上がり、生活はみるみる良くなって安定し、社会全体も同様だった。という時代だった。 もうお分かりの通り、現代の日本は既に全然違う世の中である。先進国は多かれ少なかれ似た状況にある。私の実感値としては、中国人の参加者の多くには、そういう時代の日本がそうだったのだろうが、「ギラギラ」がある。 私があらゆる教育において最も重要だと思うのは、この「ギラギラ」や「飢えている」状態である。それが全く望めない状態で研修を実施する...

【事例】某製造業企業の研究所に存在していたイノベーション阻害要因

ある製造業企業で、研究所のチームリーダーを対象とした研修が行われた。私はそのファシリテーターとして一部を担当させていただいた。その中では、当社の「イノベーション組織診断」を使った。 「イノベーション組織診断」とは、その名の通り、組織の状態がイノベーションを創出できる状態になっているか、ということを定量的に測定するものである。ただし、短時間で自分で結果も出せるセルフチェック形式もあるので、研修中でも簡単に扱える。 一見矛盾しているように見えるのだが、イノベーションは組織が産み出すということは言えない。つまり、「こういう状態にある組織は高確率でイノベーションを創出する」ということがなかなか言えない。 ただし、こうは言えるのである。「こういう状態にある組織は高確率でイノベーションを創出できない状態にある」ということだ。つまり、イノベーション創出を阻害する要因は共通性が高い。この診断はそれを測っている。 言い換えるなら、組織状態とはイノベーション創出の必要条件であって、十分条件ではない。 したがって、全体的に得点が高ければ、「イノベーションを創出できる条件は揃っている」ということを意味し、得点が低ければ阻害要因を取り除くことが必要となる。それはどれも簡単ではないが、イノベーション創出のためにリーダーシップを取るべき人がまず何をすべきかを考えるヒントになる。 この企業の研究チームリーダー、14名の皆さんはとても面白がって取り組んでくれていた。まず、セルフチェックの様式の質問紙に回答してもらい、それを自ら集計してもらった。質問紙はこのようなものである。(目的などは口頭で説明した。) 「【分野①】」と書いてあるが、分野⑥まであり、合計41問ある。セルフチェック形式ではなく、当社に回答を集めて集計する形なら、このようなレポートが送られてくる。(この研修では出力しなかったが、1名の方の実際の結果を出すとこのようになる。) 全体結果に続いて、6つの分野ごとの結果も表示されているのだが、6つの分野とは以下の通りである。 ”にっちもさっちも” ”恐怖政治” ”大企業病” ”硬直管理” ”依存” ”あくせく業務” それぞれがどういう意味か、なぜそれがイノベーションを阻害するかは別の記事で書きたいと思うが、大企業の場合、「大企業病」が低く(阻害要因として強く)なりやすく、それに続いて「依存」が...

あなた自身と部下の成長のために① ~成長できる人の2つの条件

人間は誰でも勝手に成長するものではない。もちろん、それはキャリアにおいての成長の話だが、むしろ非常に多くの人が、成長を望んでいないような行動を取ることは、『 人間の「非」成長性と適材「不」適所 』でも書いた。簡単に言えば、口では「成長したい」と言う人の驚くほど多くが、実は「既に持っている能力を使ってより大きな成果を出したい、認められたい」ということを意味していて、それは再現性の高い行動変容を含んでいないのだ。 あるいは、学校に行って、あるいは独学で、場合によっては資格を取るために勉強することが成長だと暗に思っている方もいらっしゃるが、必ずしもそうとは限らない。なぜかというと、知識を増やすことは行動変容とイコールではないからだ。 ではどういう人が成長できるのか。タイトルの通り、2つの条件があると考えられる。もちろん、もっと挙げようと思えばたくさん挙げられるが、つまづきやすいのがこの2つである。 条件1:意外に難しい「成長意欲」 1つは、当たり前なのだが、「成長意欲」である。成長意欲と言っているのは、ここが当たり前でない点なのだが、本人が行動変容の必要性を感じていることである。上記の通り、そういう人は実は多くない。 こういう風な言い方もできる。人間は、通常の状態であれば、上記のように「より大きな成果を出したい、認められたい」し、その前提としては自分が既に持っているものを使いたいものだが、「自分はダメだ」、「このままではやっていけない」などと感じているような、ある程度非常事態になった時にその必要性が出てくる。 デイヴィッド・コルブ氏の経験学習モデル("Experiential Learning Theory")というものがあるが、それに当てはめると分かりやすい。経験学習モデルを簡単に紹介すると、人は経験を通して成長することができる。それには4つのプロセスを経ていることが必要で、それは具体的な経験、省察、概念化、実践的試行であり、それは循環する。つまり、何かを経験して、それを振り返り、「こういう時にはこうするといいんだな」とか「こうした方がうまくいくんだな」などと理解し、それを別の機会で試し、そしてまた新たな経験に戻る。 このうち、うまくいかない経験の後、それを省察することによって生まれるのが成長意欲である。つまり本人が行動変容の必要性を感じている状態で...