新卒採用のほとんどのプロセスがリモートになっている中、そのやりにくさを乗り越えながら採用プロセスを進めている方々、就職活動中、あるいは就活を終えた学生さんは本当に大変だと思う。頭が下がる思いである。
その上で申し上げたいのだが、もちろん、ほんの一部でしかないが、最近、就活中の学生さんの声を聴く機会があった。その中で、「これはひどい面接方法だな」と思うことが何度もあった。ここではその1つ、「志望動機に関する質問」について書きたいと思う。私は志望動機をしつこく聞きまくることにそんなに大きな意味はないと考えている。それは表現方法の巧みさは測れても、志望動機の強さは必ずしも測れない。
志望動機を面接中に質問する企業は非常に多い。それ自体を批判するつもりもない。本当にやる気の高い人、それが持続しそうな人を採用したいという意図だろう。
ただし、そういう質問をする方々は、学生さんの視点に立って考えてみたことがあるだろうか。学生さんにしてみれば、志望動機を聞かれれば、自分の長所とその企業の長所をなんとか結び付け、いかに自分を採用することに意味があるかということを(無理やりにでも)話したいだろう。
しかしながら、学生さんに、そもそもそんなに強い希望があるだろうか? もちろん、一部にはあり得るが、非常に多くのケースではこのぐらいのはずである。
「何をやりたいかといっても、特に具体的な希望があるわけではない。かといって、むやみやたらと様々な業種の企業の、様々な職種を希望するのは現実的ではない。だから一応、業種や職種を絞ってはいるが、そこに確信があるわけでもない。楽していっぱい稼げたら一番いいけど、そんなものがないのは分かっている。せめて、やりがいが見出せて、良い上司や先輩や仲間に恵まれて楽しく仕事して、給料も高望みはしないけど、安すぎない企業に就職したい。その中でたまたま情報を見て応募してみた。もちろん、内定をもらえるなら考えたい候補ではあるけど…。」
私が学生さんの声を聴き、本音を推測するところによれば、特に技術職以外では非常に多くのケースでこの程度である。
それにも関わらず、面接まで進むと、当たり前のように面接官は「うちの会社の志望する理由を教えてください。」と、なんならかなり早い段階で質問をする。あるいは、会社説明会なのにいきなりそんなことを聞かれたという声もあった。あるいは、エントリーシートに書かせるケースも多い。(参考記事:「採用:取り組んでいる間に「この会社に入りたい」と思うようになる入社試験」)
採用側として、すぐにでも志望動機を聞きたくなる気持ちはよく分かる。しかし、よく考えてみていただきたい。恋愛に例えれば、あなたがお互いによく知らない関係の相手から食事に誘われた、という段階で「僕/私が好きなんだよね? どこが好きなの? 具体的に教えて。」と聞くのは、笑い話にしかならない。それとかなり似たことをやっているわけである。(いや、実際に恋愛話として、そういう段階で実質そういうようなことを質問していた男性の話を最近聞いて吹き出してしまったこともあったが。つまり、そういう人もいるにはいるが。)
学生さんにしてみれば、私が代弁するとすれば、「志望動機? そんなもん、ないです。たまたま見つけて、悪くはなさそうだけど、実際はどうなのかな~と思っただけです。」という程度でも、さすがにそうは言えないので、他の同業種の企業の面接の際にしゃべったことをアレンジして返すだけ。面接官が志望動機を聞いて残したメモにある内容は、実際はそんなものが多いはずだ。「正解なんて存在しないのは分かっているが、志望動機って、どう答えるのが正解なのか分からなくなる」という学生さんの声もあった。それは当然のことである。それを言い換えれば、「ないものをどうあると答えるよう強制されているのか?」という質問が志望動機の質問なのである。
繰り返しになるが、再び採用ご担当者に伺いたい。それで言語表現の巧みさは少し測れるかもしれないが、「志望動機の強さ」を本当に測れると本心からお思いだろうか?
では、「志望動機の強さを測るには、どうしたらいいのだろうか?」これも質問として間違いである。志望動機が、もちろん強く持っている可能性もないわけではないが、そんなものを持っていない方が自然だという前提から出発する必要がある。
もっと突っ込んで言えば、無意識的にか、意識的にか、いわゆる「上から目線」になっているから志望動機の質問をするケースが多いと考えられる。企業や面接官が上では決してない。対等に尊重されるべきであるはずだ。
そうだったとしたら、何をすべきか。まずは会社のことをよく知ってもらうことが必要だろう。良い部分だけでなく、良くない部分も見せる方が誠実である。そう、恋愛と同じである。良い部分だけ見せていれば、付き合ったとしても、後から幻滅して早々に別れることにも繋がる。新卒採用社員の早期離職率の高さを問題視している企業も多いが、こういう側面も検証されたら良いかもしれない。
あるいは、配属される可能性のある職場の、いくつかの階層(役職)の社員と直接話ができる機会を作ることや、学生さん自身に「仮に就職した場合の自分」を具体的にイメージしてもらう機会を作ることなども考えられる。こうした「好きになってもらうチャンスを作る」のは当たり前のことのはずだが、これを省略しすぎている企業は実に多そうである。