これを書いている今のつい数時間前の話だが、日本の某新聞社が、自社の電子版の広告キャンペーンをやっているのを目にした。そこでは、その新聞電子版のサブスクリプションを止めると「ビジネス実践力がつかない。つけるためには継続が大事。」というような内容を訴求していた。 私は甚だ疑問なのだが、これは何か証拠でもあるのだろうか。継続した人のグループと継続しなかった人のグループで、その人たちのビフォーとアフターとの差に有意な差があったとでも言うのだろうか。百歩譲って差があったというなら、本当にどんな職種においてもその差があると言えるものなのだろうか。 私がこう反論するのは、確信に近いものがあるからだ。まず関係ない。論理的に考えれば関係あるはずがない。「ビジネス実践力」をどう定義するかにもよるが、わざわざ「実践力」を切り取っているのだから、思考面は含めないと考える方が自然である。そうだとすると、人を動かしたり心を動かしたりする感受性を含めたコミュニケーション面や、他者と信頼関係を構築するところや、信頼関係を構築する過程でのパーソナリティの面、あるいは専門的なテクニカルスキルの面が主に関連してくる。新聞の電子版を読み続けると、コミュニケーション能力やパーソナリティやテクニカルスキルなどが上がるのだろうか。そうだとしたらその合理的な理由は一体何なのか。 二百歩譲って、「ビジネス実践力」には思考面やその前提知識も含まれているとしよう。そうだとすると、例えば私が関わらせていただくことの多い「経営視点」を養成するのに新聞を使うことはできる。簡単に言えば、「自分がその記事の当事者の立場だったとしたら、何を感じ、何を考え、どう解決しようとするか」を想像し、できるだけ多くの状況設定や選択肢を想定することで擬似経験の幅や当事者意識の強さを広げたり高めたりすることができるからだ。しかし、「新聞(の電子版)を読んでさえいれば自動的にビジネス実践力(なるもの)が伸びる」わけではない。そういう意図を持って読む必要があるからだ。 いや、広告では「自動的に伸びる」とは言っていない。私がわざわざこんな文章を書いてまでこの広告を問題視しなければならないと考えたのはそこに関係している。「サブスクリプションを止めると伸びなくなる」というような表現をすることで、少し大げさに言えば「脅し」ているわりに「自動的に伸びる」ことは
もしかしたら、既に忘れ去られつつあるのかもしれないが、昔「働き方改革」というものがあった。いや、昔のことに思えるが、調べてみると、2016~18年頃に盛んに議論されていた。 ブラックな働かせ方が横行していた(している?)日本において、私もその必要性は理解できるが、全くもって非論理的な議論も含まれていた。何年かして検証すべきだと思っていたのだが、そろそろ検証してみようと思う。 日本で働き方改革が政府主導で推進され、2017年には、政府による「 働き方改革実行計画 」の中でこう謳っている。 「経済成長の隘路の根本は、人口問題という構造的な問題に加え、イノベーションの欠如による生産性向上の低迷、革新的技術への投資不足。」 ちなみに、私は知らなかったのだが、「隘路」というのは「あいろ」と読むそうで、細くなった道というような意味で、つまりボトルネック、問題点というような意味のようである。さほど一般的でない表現をすることに何か少しでも意味があるのだろうか。 そして、「日本経済の再生を実現させるためには、投資やイノベーションの促進を通じた付加価値生産性の向上と、労働参加率の向上を図ることが必要。」と。 なるほど、と。ただし、ここから先は私にはほとんど理解できないのだが、そのための方法として挙げられているのは、全く悪意なく要約すると、以下のようなもの。 「非正規」という言葉を一掃すれば、モチベーションが上がって労働生産性が上がる。 長時間労働を是正すれば労働参加率が上がり、労働生産性が上がる。 単線型の労働市場・企業慣行が柔軟になれば、付加価値の高い産業への転職・再就職が増え、全体の生産性が上がる。 1つ質問したくなるのは、「非正規、長時間労働、単線型キャリアパスをなくせばイノベーションが起こって生産性が上がるのですか?」という点であり、もしその答えが「そうだ」というなら、さらに「正気ですか?」と問いたい。 いや、それでも成果が出ていればいいのかもしれない。その場合は潔く考えを改めたい。新型コロナウィルスが蔓延した2020年よりも前、2019年度のデータを見てみると付加価値は残念ながら上がっていない。(「 経済産業省企業活動基本調査 」) 新型コロナウィルスの蔓延で経済が縮小しているので2020年以降を見ていないが、仮にこの間、リモートワークが普及したことが「働き方改革」に貢献して